交際費の課税問題あれこれ(法人編)
2011年2月24日 | 税金の基礎知識
交際費に関する基本的な規制
個人事業の場合、交際費の経費処理について限度額の定めはありません。
これに対して、法人の場合には損金算入限度額が定められているという点で違いがあります。
すなわち、
損金不算入額 | |
---|---|
資本金1億円以下の会社 (資本金5億円以上の会社の100%子会社を除く) |
年600万円までの場合
支出交際費 × 10% 年600万円を超える場合 (支出交際費 - 600万円) + 600万円 × 10% |
資本金5億円以上の会社の100%子会社 | 支出交際費の全額 |
資本金1億円超の会社 | 支出交際費の全額 |
また、個人事業の場合と同様、会社の業務に伴って支出された交際費のみが上記の交際費に含まれることになります。
事業に関係ない交際費
会社の経費として認められるものは、あくまでも事業のために必要なものに限られます。これは交際費に限ったものではありません。
しかし、しばしば会社の業務に関係ない交際費が紛れ込んでいることがあります。
たとえば、
・ 社長が一人で行ったキャバクラの飲食代
・ 社長が家族とした飲食代
などが典型です。
発覚した場合の税務上の処理
これらは会社の事業とは無関係な個人的な支出です。
個人の遊興費な訳ですから、会社が負担するのは適切ではなく、税務上はその個人が負担すべきということになってしまいます。
つまり、税務上は、交際費ではなく、給与とみなされることになるのです。
その人が役員であった場合には役員報酬とみなされ、従業員であった場合には従業員給与とみなされることになります。通常、従業員の立場でこのような領収書を経費処理することはありません。ほとんどが社長によるものではないでしょうか。
事前確定届出給与の手続きをとっている場合を除き、定額ではない役員報酬は損金不算入とされるため、個人的な遊興費と認定されたときは、該当の支出は法人税の計算上、損金不算入とされることになります。
交際費は元々損金算入限度額が設定されていますので、損金不算入の役員報酬とみなされても結果的に同じではないか?と思われるかもしれませんね。
しかし、そんな甘いことでは済まないのです。
給与認定されるわけですから、会社の税金には影響ないかもしれませんが、個人の所得税が過小であった!ということになってしまうのです。
残念ながらそれだけでは済みません。
個人の給与を会社の経費となるように仮装していたことになります。すなわち、仮装隠ぺい行為があったということで、所得税側で重加算税が課されることになるのです。
この手の問題が表面化するのは、税務調査の際ですね。
領収書による仮想隠ぺい
ありがちな領収書の税務的取り扱いを考えてみます。
領収書の処理 | 税務的取り扱い(私見) |
---|---|
取引先と打ち合わせを兼ねて飲食した。支払は割り勘とし、半額の領収書を2枚もらい経費精算した。 | 社内予算が厳しくなっている現在ありがちなことですね。この場合、事実がありますので、5000円以内であれば会議費になりますし、5000円超であれば交際費となります。 |
取引先と打ち合わせで飲食をし、総額4万円になったが、社内規定で3万円までしか精算が認められていないので、店に言って3万円の領収書をもらい経費精算した。 | 領収書の金額が事実よりも少額になっています。その意味で改ざんされていることになります。税務的観点からは、事実が存在し、損金処理されている額が少額なので、仮装認定を受けることはまずありません。通常の交際費と認められるでしょう。 |
取引先と打ち合わせで飲食をし、総額4万円になったが、社内規定で3万円までしか精算が認められていないので、店に言って3万円と1万円の領収書に分割してもらい、日付も分けてもらって経費精算した。 | 税務的にはいずれも交際費になります。取引事実は1回の飲食なので5000円の判定対象にはなりません。ただし、仮装を指摘される可能性もあります。 なお、別の問題として社内規定違反があります。この問題は社内ルールに従うことになるでしょう。 |
上記を役員が行った場合 | 事実行為として商談があれば、税務的には4万円が交際費という取り扱いになります。ただし、税務当局は役員給与を主張してくる可能性がありますので注意が必要です。 |
取引先と打ち合わせで1万円の飲食をし、店からは白紙の領収書をもらい、自ら2万円と追記し経費精算した。 | 税務的には1万円までは交際費処理することが可能でしょう。ただし、会社に対する横領になりますね。 |
役員が一人で行ったクラブの領収書を打ち合わせと称して経費精算した。 | 一人での飲食費に経費性は認められません。役員に対する給与として取り扱うことになるでしょう。この場合、会社の経費であるかのように、実際には会っていない人と面談したと記録したことになります。会社処理としては損金不算入の交際費から損金不算入の役員給与に変更されることになります。同時に役員給与に関する所得税で重加算税が課される可能性があります。 |
上記で領収書の日付を変えて複数回に分割し、打ち合わせと称して経費精算した。 | 上記と同様です。 |
役員の家族で行った飲食代を会社経費として精算した。 | 上記と同様です。 |
第三者から飲食費の領収書をもらって会社経費として現金精算した。 | 税務的には事実が存在しないので、交際費になりません。経費精算により会社から現金を引き出しているので役員給与とみなされるでしょう。交際費処理していた金額は損金の額から除外され損金不算入の役員給与とする処理を求められるでしょう。また、経費を偽装したので会社に重加算税が課される可能性があります。 |
上記の場合で現金精算せず、未払処理をした。 | 未払金が精算されるまで役員に現金は渡っていないことになります。この段階であれば、事実関係のない経費が帳簿に混入したに過ぎず、当該金額の損金が否認されるだけで役員給与認定を受けない可能性があります。 ただし、未払経理をしたことをもって給与認定を受ける可能性もあります。 なお、会社の経費であるという仮装をしていますのでいずれにしても重加算税が課される可能性があります。 |
一人5000円の飲食費になるように参加者人数を水増しして経費精算した。 | 実体が一人5000円を超えているのであれば、会議費ではなく交際費認定を受けることになります。仮装していますので重加算税の対象となります。 |
一人5000円の飲食費になるように領収書を分割して経費精算した。 | 上記と同様です。 |
社内だけでの飲食なのに外部の人が参加しているかのように精算書を作成して経費処理した。 | 一人5000円の基準は社内の人だけの飲食には適用されません。交際費認定を受けることになります。仮装していますので重加算税の対象とされる可能性があります。 |
行きつけの飲食店からその店の店名スタンプと認印を押してもらった領収書つづりをもらい、役員が必要に応じて日付と金額を追記し経費精算していた。 | かなり悪質と認定されるでしょう。 交際費処理額は否認され、損金不算入の役員給与認定を受けるでしょう。ほぼ間違いなく重加算税が課されます。 |
役員が行きつけのクラブで飲食した際に、実体のない領収書を追加でもらい経費精算した。 | 上記と同様です。 |
上記のような領収書が混入しているのではないかという視点で税務調査が行われます。
疑わしいと判断されれば、領収書の発行元である店舗への反面調査が行われることもあります。同席したとされる取引先に問合せしないとは言えません。お店や取引先が事実関係を調査官に説明すればその段階でアウトです。
怪しげなことはやめましょう(笑)
生前贈与に関する最高裁判決の意義
武富士元会長から長男への海外資産の生前贈与に関する最高裁判決
結構大きい最高裁判決が出たと思います。
この判決を受けて、日本の富裕層がどのように動くのか、今後の動向を注目しておく必要があるでしょう。
消費者金融大手「武富士」(会社更生手続き中)の故・武井保雄元会長夫妻から海外法人の株を生前贈与された長男の武井俊樹元専務(45)が、贈与税など約1330億円の課税処分取り消しを求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(須藤正彦裁判長)は18日、課税を適法とした2審判決を破棄し、処分を取り消した。判決は「元専務は当時、海外を生活拠点としていたため課税できない」と判断した。個人に対する追徴課税取り消しでは過去最高とみられる。
(中略)
訴訟では元専務の生活拠点の認定が争点となった。贈与時(99年)の相続税法は、海外居住者が国外財産の贈与を受けた場合は非課税と規定。元専務は97~00年の3分の2を香港で過ごしたが、国側は、課税逃れの海外滞在で実質的な生活拠点は国内と主張した。
これに対し、小法廷は「滞在日数という客観的な要素で決めるべきだ」と判断。「税回避目的で海外滞在日数を増やしていたとしても、当時の法律では課税は違法」と述べた。
1審の東京地裁(07年)は「国内に生活拠点があったと認定するのは困難」と処分を取り消したが、2審の東京高裁(08年)は「税回避目的で海外に出国して滞在日数を調整しており、課税は適法」と判断していた。【伊藤一郎】『毎日jpH23.2.18より』
世間では過払い金返還請求の原資に還付金を充当させるべき!といった報道がされています。これは税理士が議論する問題ではないので触れません。
ポイントは3つ。
- 相続税・贈与税を回避するために海外に「住所」を移そうとした富裕層がいた(る)
- 「滞在日数」により「生活拠点」を認定した
- 最高裁は租税法律主義を厳密に適用した
過去の話ではない
平成23年度税制改正で相続税の増税が予定されています。いわゆる『相続税の大衆化』です。基礎控除が40%削減され妻一人・子一人でご主人が亡くなった場合、従来7000万円だった基礎控除が4200万円に減額される予定となっています。
あわせて、相続税の最高税率が50%から55%に引き上げられる予定です。
富裕層にとってこの5%の税率アップは大きなインパクトがあります。
たとえば、上場会社の創業者のように100億円規模の財産を持っている人であれば、5億円の増税!増加税額は全体からしてみれば微々たるもの?かもしれません。しかし、全額にすると55億円になってしまうわけです。
これら富裕層は何を考えるかといえば、武富士元会長のように子供に財産を無税で相続させる方法があるならば行いたいということになるわけです。
何も富裕層に限らず一般的な思考といえるでしょう。
今回の判決では、過去にそのような相続税法の抜け穴があった!という議論ではありません。現在は当時よりもやりにくくなった、ということに過ぎません。
巨額の財産を有する富裕層は今でも何とかできないものか!とプライベートバンク等を駆使して考えているはずなのです。
現在でも海外に住所と財産を移転すれば相続税を回避できる
上記のような抜け穴を塞ぐため、相続税法は平成12年改正で以下のように変更されました。
ご覧頂くとわかるとおり、被相続人(贈与者)と相続人(受贈者)ともに5年超日本国内に「住所」がなければ、日本で課税することができないことになっています。
確かに改正前よりも課税を回避しにくい制度となりました。
しかし、巨額の財産を有する富裕層が高額の相続税を回避するために国内の住所を持たないようにしないとはいえません。
しかも、今回の最高裁判決では、「住所(生活の拠点)」の認定を「滞在日数」により判定すべきであるとしたのです。従来より、中国駐在員が中国による全世界所得課税を回避するためにパスポート上の入出国記録を管理していますが、同様のことを日本の相続税課税を回避するために資産家が行ったら合法!と最高裁がお墨付きをつけたとも理解できるわけです。
諸外国では、相続税のない国が多数存在しています。さらに、現在相続税がある国でも、相続税を廃止しようとする動きがあるようです。タックスヘイブンに逃避した資産を呼び込もうといった思惑もあるようです。
日本から脱出した資産家がこれら相続税のない国に「住所」を設定したら、日本の相続税をまるまる節税できてしまう。そこまでする人がどれだけいるかが問題ですが、恐らく何人かはいますよね。
国内に資産があれば日本に課税されますので、不動産を売却して金融資産に切り替え国外で運用する、そんな時代になってしまうのでしょうか!?
考えすぎだといいのですが。。。
交際費の課税問題あれこれ(個人編)
2011年2月17日 | 税金の基礎知識
所得税では必要経費処理限度額はない
事業所得や不動産所得で交際費処理が問題になることがあります。
法人の場合には、交際費の損金算入限度額が設けられています。現在の法人税では、年600万円までは支出交際費の90%までは損金算入可、10%は損金算入不可となっています。
これに対して、個人の事業所得や不動産所得に関しては必要経費処理の限度額は設けられていません。
何でも必要経費にできるのか
事業所得の必要経費として、キャバクラなどでの飲食費を必要経費処理される方がしばしばおられます。
さて、このような飲食費は所得から控除できるのでしょうか?
常識的に考えれば答えは簡単です。
事業のために必要なものであれば控除できるけれど、事業とは関係なく個人的な嗜好のものであれば必要経費にはなりません!
円滑な取引関係を構築するために取引先を接待する、新規取引獲得のために顧客を接待するといった目的の場合には必要経費性が認められることになるでしょう。
これに対し、日々のストレスを解消するためと称して、自らの慰安のために飲食したものは必要経費にはなりません。典型的なのが1人だけで行った飲み屋での飲食費ですね。このような場合にはどんな理由をつけても、個人の遊興とみなされることになります。
では、誰かと一緒に飲食したものであるなら経費になるのかということですが、たとえば家族で行った飲食も家庭の生活費なのであって、事業との関連性は認められるものではありません。
こういうことをいうと「取引先の人と行った!」ことにすればいいんですか?という方がおられます。いいとか悪いとかという議論ではないですよね(汗)
不自然な交際費
事業規模や事業の特性上、決算処理された交際費が??という場合があります。
たとえば、
- 売上1500万円で交際費が700万円もある!?
- コンサルタント業で多額の交際費がある
- アフィリエイター業で多額の交際費がある
- 不動産所得で交際費がある
そんなに交際費を支出して生活できるんですか?という疑問がわきますよね。人脈紹介や関係構築を事業目的とした顧問業ならわからなくもないですが、常識的には理解しにくいバランスだと思います。
副業収入がある人が飲食費を事業経費に含めているのではないか?なんて疑われる典型です。
コンサルタントというのは、一般的に接待する側ではなく、接待される側だ、という認識が税務署にはあります。
先生商売なのに何でそんなに交際費が必要なんですか!先生の遊び代が経費処理されている可能性が高いのでは、、、ということになりやすいですね
アフィリエーターに限らずインターネット上での事業で、顧客や取引先と日常的に会って交渉等を行う必要性が低いと思われる事業というのがありますよね。事業の性格上やはり不自然だと思われやすいものです。
不動産賃貸業で交際費を支出する習慣はあまりないのではないでしょうか。物件のオーナーさんがテナントに中元歳暮を送るということはあるかもしれません。入居者はお客様ですからね。不動産業者と良好な関係を構築するため!?といっても年がら年中接待するなんてことは考えにくいものなので、多額の交際費が計上されるのはやはり不自然です。
税務署はこうした不自然な交際費支出がないかをチェックしているようです。もちろん、交際費だけをチェックしているわけではありません。全体のバランスと絶対額をモニタリングしていると理解しておくべきです。
税務署とすれば、ある程度の修正増差額が発生すると見込まれるものから順番に税務調査をしていくことになります。その意味で、ある程度の期間、『泳がせておく』という思考もあるようです。
バレるとどうなるのか
実際には一人だったり、家族と行ったものを取引先の人と行ったことにして経費処理し、後日このことが発覚した場合、税務的には、
仮装隠ぺい行為
とみなされることになります。
仮装隠ぺい行為に対しては税法は厳しい取り扱いをすることになっています。
税務署がそのように認定すれば、
必要経費性が否定されることはもちろん、
重加算税(35%)
を課されることになります。
たとえば、100万円仮装した支出を経費処理していた場合、
追加所得税 = 100万円 × 所得税率
重加算税 = 追加所得税 × 35%
延滞税 = 追加所得税 × 延滞日数 ÷ 365日 × 14.6%(最高の場合)
おまけに、住民税があとから請求されることになります。
確定申告シーズンになりましたが、上記のようなことにならないようお気をつけください(笑)