消費税の仕入税額控除に関する改正
2011年3月2日 | 税金の基礎知識
消費税の益税排除が進む
平成23年度税制改正大綱に消費税の仕入税額控除の縮小に関する記述がされました。
元来、消費税法では、売上に対して預った消費税とその売上のために必要とした仕入や諸経費に課税された消費税を相殺して納税することとされています。
たとえば、建設業の会社が兼業で居住用不動産の賃貸業を兼業しているとします。居住用不動産の賃貸収入を計上するために要した修繕費用を負担することがありますが、当該修繕費は非課税売上に対応する課税仕入なので、建築売上などの課税売上に課される消費税と相殺することができないということです。
このような処理が原則なのですが、これまで、課税売上割合が95%以上であれば、課税売上の消費税からすべての課税仕入の消費税を相殺することが認められていました。
課税売上のための経費なのか、非課税売上のための経費なのかを区別することに相当の事務負担がかかるため、実務上の便宜を考慮して簡便的に認められていたということなのです。
つまり、現行制度の下では、消費税の納税にあたり益税が発生していた事業者が多数あったということなのです。
意外に大きな益税が発生していた
上記の構造はすべての事業者について認められていたものです。
売上が5000億円ある大会社でも課税売上割合が95%以上であれば認められていました。
たとえば、売上が5000億円の会社で、売上の内訳が課税売上4800億円、非課税売上が200億円だとすると課税売上割合は96%となります。非課税売上に対応して発生した課税仕入れが100億円あったとすると5億円分の仕入控除が本来意図されていない消費税額5億円が課税売上の消費税から控除され益税になってしまうということなのです。
非課税売上の対象となる事業としては、居住用賃貸不動産事業のほか、介護サービスや社会福祉事業などが典型です。
このように規模が大きい会社が、非課税売上とされる事業を兼業として行うと消費税の益税が生じてしまうという問題があったといえます。
中小零細レベルで考えるとそれほど大きな金額ではないと思いがちですが、消費税免税制度から生じている益税よりも大きなインパクトがあったのかもしれませんね。
大規模事業者はシステム変更が必要か
今回の改正案では、課税売上割合が95%以上であることで仕入税額の全額控除を認めるのは、課税期間の課税売上が5億円以下の事業者に限定するとされています。
逆にいえば、課税売上高が5億円超の事業者は、仕入税額控除の計算方法が変更されることになります。すなわち、個別対応方式と一括比例配分方式のいずれかによって、仕入税額控除の金額を計算しなければならないことになります。
現在までの課税売上割合による計算とこれらの計算は大きく異なっています。
個別対応方式は、事業単位ごとに課税仕入れを取引ごとに区分集計しなければなりません。一括比例配分方式は、課税売上割合で課税仕入れを按分するので伝票レベルでの事業への紐付けは必要ありませんが、課税売上割合と課税仕入れのバランスが崩れると消費税が損税になってしまう可能性もあります。事業者としては、両方式の優劣を監視していかなければならないことになるでしょう。
従来からの会計システムでこれを効率的にできればよいのですが、うまくいかない場合には新たにシステム開発しなければならないことも考えられます。こうした理由から適用開始時期が平成24年4月1日以降開始の課税期間とされているのでしょう。
問題は中規模事業者
売上が10億円ぐらいの中規模事業者は事務負担が激増する可能性があります。
これまでのように支払が課税仕入れなのか、非課税(不課税を含む)の仕入なのかという区分だけではなく、事業単位ごとの区分も伝票単位で行わなければならないからです。
中規模事業者では、事業単位が明確になっていなかったり、事業単位が流動的なこともしばしばあります。部門別会計を行ってこなかった事業者は部門別会計が必須になることでしょう。外部の会計事務所等に帳簿作成を依頼している場合には料金アップも覚悟しなければならないかもしれません。
大規模法人であれば既に検討に入っていると思いますが、中規模の事業者は税理士と早めに検討を始めたほうがよろしいと思います。
消費税免税点に関する改正
2011年3月1日 | 税金の基礎知識
消費税免税点が改正される
平成23年度税制改正大綱で消費税の免税事業者の要件を変更する内容が記述されました。
小規模な法人・個人に加え、これから起業を検討している方に影響が出ることが予想されます。
現行制度では、
基準期間の課税売上高(2期前の売上高とほぼ同じ)が1000万円以下の事業者(法人・個人)は、課税事業者の選択をしていない限り当年度の消費税は免税
となっています。
改正後は、上記にさらに
前事業年度の開始の日から6月を経過した日までの課税売上高が1000万円を超えている事業者は、当期を消費税を免税にしない(課税する)
という要件が追加されることになります。
具体例で考える
上記には専門用語が混じっているのでわかりにくいと思います。
以下に具体的例でどのような場合に免税になり、どのような場合に課税になるのかを考えてみます。
当期の取り扱いは前々期の課税売上高のみで判定
⇒前期に課税売上が急増しても課税事業者となるのは翌期からとなる。
前々期の課税売上高による判定に加え、前期の上半期の課税売上高を判定要素に加える。
前期の課税売上高が上半期で1000万円を超えている場合には、翌期から課税事業者となる。
起業への影響
従来、資本金1000万円未満で会社を設立することで、設立当初2期間を消費税免税事業者とすることができました。
今後は第1期に関しては従来どおり免税とすることができますが、第2期は第1期の最初の6ヶ月間の課税売上高が1000万円を超えているか否かで課税になるのか免税になるのかが分岐することになります。益税額が縮小されるることになります。
適用関係
上記の改正は平成24年10月以降開始する年(個人)もしくは事業年度(法人)からとされています。
すなわち、
個人事業については、平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間について適用されます。
法人については、平成24年10月1日以降開始され、平成25年9月30日までに終了する課税期間について適用されることになります。
よって、法人成りする場合や新たに会社設立する場合のタイミング及び第1期の事業年度をどのように設定するかで優劣が生じる可能性がありますのでご留意ください。
消費税増税環境の整備が始まる
2011年2月28日 | 税金の基礎知識
益税の排除
消費税税率を何%にするかという議論が昨年から激しくなっています。消費税増税はもはや不可避であることを前提とした議論です。
増税される場合、課税が公平性かどうか、当然に問題とされるでしょう。
こうした批判を可能な限り受けないようにするための手当てが、平成23年度税制改正に盛り込まれる予定です。
消費税の逆進性問題は国民の生活権を中心とした議論です。今回の改正大綱ではそれ以前の問題として『消費税の益税排除』を目的としたものとなっています。
23年度税制改正では
次の改正が提示されました。
- 消費税の事業者免税点制度の適正化
- 仕入税額控除制度における「95%ルール」の見直し
- 消費税の還付申告書への添付義務
従来、消費税の免税点は、基準期間の課税売上高(前々期の課税売上高)が1000万円以下か否かという単一の基準で判定することになっていました。
これを前期の上半期の課税売上高が1000万円を超えているか否かという基準を追加することで、免税事業者に該当しにくくする改正方針が示されました。
消費税の免税点制度自体、益税構造の典型で、免税事業者は顧客から消費税相当分を加えた収入(売上)を得ても国に納税することなく自らの利益とすることができてしまうものです。たとえば、起業して一気に売上が獲得できたとしても2事業年度免税事業者として消費税相当分を利益にすることができましたが、第1期目の上期だけで1000万円超の売上がある場合には第2期目は課税事業者として消費税の申告納税義務が生じることになるのです。免税点を利用した「不公平」が生じるケースを縮小させる意図での改正といえます。
従来、課税売上割合が95%以上であれば、どのような事業のために支出するかにかかわらず外部の事業者に支払った消費税を顧客から預った消費税と相殺して納税額を算定することが認められていました。
その課税期間の課税売上高が5億円以下の事業者についてのみ従来の方法で処理することを認めることし、5億円超の事業者には認めないこととする改正方針が示されました。
消費税法は元々、課税売上からはこれに対応する課税仕入分の消費税を控除(仕入税額控除という)し、居住用不動産の賃貸収入のように非課税売上に対応する課税仕入分の消費税は課税売上の消費税から控除を認めない、という仕組みになっています。
たとえば、20億円の課税売上がある一方、非課税の居住用不動産賃貸事業収入が1億円ある場合、課税売上割合は95.2%(20億円÷21億円)となるため、居住用不動産事業のために外壁塗装工事に伴い5000万円を支出したら、これにかかる消費税を20億円の課税売上事業に対するものとみなして仕入税額控除することができたところを、控除できないようにするということなのです。
このように従来益税の源泉となっていた課税売上割合が95%以上の場合の全額仕入税額控除制度を小規模な事業者に限定することで益税を縮小しようとしている訳です。この改正による影響は意外と大きく、上場会社だけでも数百億円の増税になるのではないでしょうか。もっとも、これまでそれだけの益税が発生していたということなのですが。。。
これまで任意提出となっていた「仕入税額控除に関する明細」を還付申告書への添付義務を課すことが示されています。
これは消費税の不正還付請求があとを絶たないため、少しでも適正な還付ができるようにすることを目的としたものです。
このように今回の改正の方向性は、現行制度の大枠を変更することなく、今まで発生していた「益税」をできるだけ縮小し、国庫収入を増加させるとともに、税率アップ時に批判を受けないようにすることが主眼になっていると考えられます。
それでも益税は生じる
政府はいったい消費税率を何%にする気なのでしょうか?
財務省は「税制について考えてみよう」という広報をHPに掲載しています。この中に掲載されているグラフでは、いかに日本の消費税率が低いかを示すとともに、25%ぐらいが世界標準!と言いたいようにも思えます。
このような広報がなされるだけで、諸外国の消費税制度については解説されていません。
消費税法を新設する際に、インボイス方式にするのか帳簿方式にするのかという議論がありました。現在日本で採用されているのは帳簿方式というものです。
帳簿方式は、取引先が発行した請求書の記載内容に基づいて、消費税の課税対象か否かを帳簿作成者が判断し税額を集計していくものです。
これに対して、インボイス方式は、取引先が発行するインボイスに記載された消費税額を集計することで納付税額を計算する方法です。このインボイスは税務署が発行したものでなければいけないこととされており、免税事業者はインボイスを入手することができません。法定のインボイスを集計するのですから、複数税率制の導入も比較的しやすいと思われます。
インボイス方式であれば、何番から何番までのインボイスはどの事業者に発行したかを税務署が管理することになります。必要なインボイスがなければ仕入税額控除することさえできないわけです。インボイスを紛失した場合も同様です。
この方式であれば、免税事業者に発生する益税も課税売上割合云々の判断も不要になるものと思われます。また、不正還付請求もできなくなります。
帳簿方式を維持する限り、免税事業者の益税問題も不正還付請求問題も規模が小さいながらも存在し続けることになりますし、税務調査という行政コストも減りません。これで課税の公平云々と言えるのでしょうかね?
根本的な問題を再検討することなく、細かな制度を修正しても益税問題が継続して発生してしまいます。このような制度のままで大幅に税率をアップしてよいのでしょうか。
怪しげな検討事項が含まれている
23年度税制改正大綱に「社会保障・税に関わる番号制度」という項目があります。
「主として給付のための制度であり」と前置きしながら、その直後に「国民の負担の公正性を担保し、制度に対する国民の信頼を確保するとともに」と記載されています。
なんだか意味深に読めてしまうのは僕だけでしょうか?
消費税のインボイス方式では、全事業者(もしくは全課税事業者)に付番しなければなりません。事業者と交付インボイス、納税額を集計管理するコンピュータシステムも立ち上げなければなりません。日本ではこのようなものが存在していなかったので、導入不能だったといえます。
税制改正大綱には今後の必要検討事項として、上記の番号制度を核としたコンピュータシステムの構築に関する記述もされています。
大増税に向けて納税環境の整備が水面下で進められているのかもしれませんね(汗)