「国税記者 実録マルサの世界」
2012年3月21日 | 中小企業と経営 / 税金の基礎知識 / 読書
この本を手にとる人は、税理士業務に関係している人か、無理な税金対策を行っている経営者がほとんどではないでしょうか。国税局査察部とは全く無縁!という人はそもそも興味を持たないでしょう。
20年来の不景気で脱税事件として摘発される規模は年々小さくなってきています。増差所得で1億円超がひとつの目安と言われており、この本の中でもそのように解説されています。
増差所得1億円なんて自分には関係ない!とお考えの方、意外とそうでもないかもしれません。なぜなら、ここでの増差所得は3年間の累計だからです。悪質な所得隠しの場合には7年間遡及して国税当局は更正できますからもっと範囲は広がります。査察部が実際に刑事告発できるのは、告発のための証拠固めの時間を考慮すると3年なのだそうです。調査対象は5年~7年ということになるのでしょう。単純計算すると年3,300万円以上の所得漏れがあると告発レベルになってしまうようです。期ズレは度外視して考えてのことですけどね。
脱税の手口は、売上を隠す方法(売上除外)、不正な経費を計上する方法(架空経費の計上)、その組み合わせの3パターンに分類されると記述されています。確かにその通りです。
なぜ、こんな所得隠しを行ってしまうのか?
著者は、急激な売上増加の発生で、想像以上の法人税の課税が予想されるとついもったいなくなって(汗)やってしまうパターンが多いと解説しています。景気がいいのは今だけかもしれない、落ち込んだときの資金を確保しておかないと大変なことになってしまうのだから備えておかないと。。。といった心理状態に、経営者は陥ることがあるということなのでしょう。
実際には、これぐらいみんなやっている、大した金額ではないから大丈夫だろう!から始まってどんどん加速してしまった、あるいは、今やめたら過去の処理が疑われるからまずい!という心理パターンもあるかもしれません。
本書は、国税局付きの記者という立場から取材した脱税事件について解説が行われています。国税職員には2重の守秘義務が課されているので絶対に調査情報を漏らさない!!と何箇所にも記載されているのですが、国税局職員から情報を入手した!という部分もあって違和感がありました。実際には多少漏れてしまっているのでしょうかね。手口が詳述されていますが、基本的に地検特捜部が告発した事件を取り上げていますから、裁判上の情報に依拠しているのかもしれません。
くれぐれも手口をマネしないことです。
査察部とまでは行かないまでも、所轄税務署でも管轄内の法人をよく分析しているものです。もちろん、料調(リョウチョウ)も監視しているでしょうから、良からぬことは考えない方がよいです。
ちょっと検索してみれば、脱漏所得金額の年平均額が2,000万円から3,000万円ぐらいのものが意外と多いことがわかります。