『高田直芳の実践会計講座 「戦略会計」入門』
高田先生の本のご紹介です。
前回の『「管理会計」入門』に軽いショックを受け興味を持ったのがきっかけでした。
どうやら本格的に「ありそうでなかった」高田ワールドの扉を開いてしまったようです。
高田先生の著書のタイトルは、「どこにでもありそう」な「管理会計」「戦略会計」ですが
中身は従来の理論教本とは全く違うのです。
本書は、経済学の理論を本気で実務に応用しようとしています。
この、高田先生の「本気」は今までありそうでなかったものでした。
というのも、従来、経済学と会計学は別物として議論されてきたと思います。
しかし、高田ワールドでは、
経済学⇒会計学
会計学⇒経済学
というように、相互検証を行い両者の同一性を検討しています。
市場の動静を経済学的に整理し、各段階で検討すべき経営戦略の方向性を示す。的確な経営情報を収集・活用するための道具として管理会計(戦略会計)を位置づけています。
これを踏まえて経済学の会計学への応用可能性、さらには経営学への応用可能性を検討しているのです。全く新しい試みだと思います。
経済学の均衡理論や独占的競争市場において発生する現象を実際の企業経営にどのように応用するか。企業のおかれたポジションを分析することで、どのような経営戦略を選択すべきなのかなどが検討されています。
ただ、ミクロ経済学では、情報の完全性があるものとして理論化されているわけですが、実社会はそうはいきません。市場規模にしても、市場の成熟度にしても客観的確実な数値を手にすることは困難です。
実務化するためには企業ごとに何らかの仮説を想定し、検証していく作業が不可欠となります。万が一ミスマッチした場合、経営の失敗につながる予感もします。しかし、情報が不完全な実社会であっても、こうした試行錯誤を繰り返す努力をしている企業と直感に頼った経営をしている企業とではいずれ大きな差となって現れることでしょう。
本書を読解するには、会計の基礎知識とCVP分析に関する基礎知識に加え、ミクロ経済学の知識がある程度必要かもしれません。
本書で展開される理論は公認会計士試験の試験科目でほぼ網羅されるものなので、自分としては懐かしい知識ともいえました。しかし、実務で経済学を使うことはあまりないように思いますから、とっつきにくい方もおられるかもしれません。受験レベルで理解する必要があるものではありませんから、気楽に読む姿勢でよいと思います。
著者の高田先生とは何者よ?と思って調べてみると、公認会計士試験の試験委員をされているのですね。受験生にとってはきついかもしれませんね。でも、実務では役に立つ知識が満載ともいえますから頑張ってもらいたいです。
最小自乗法と損益分岐点分析(CVP分析)
2012年5月23日 | 管理会計
最小自乗法による損益分岐点分析はどの程度の正確さがあるのか?
『高田直芳の実践会計講座 「管理会計」入門』をご紹介しましたが、その中で最小自乗法による損益分岐点分析が紹介されていました。
大変興味深い話です。この計算にある程度の精度があるのであれば、中小企業でも活用できる局面が多々ありますからね。たとえば、帝国データバンクや東京商工リサーチの信用情報を基礎として競合会社の固定費の状況や損益分岐点を計算できたりしますからね。
ところが、著者の高田先生は、変動費率がマイナスになるなど異常値がはじかれることもあると指摘されています。いい数字がはじけることもあれば、そうではないこともあるというのでは困ります。いい数字だと思っていた数字でも実態を現していないのであれば、意思決定をミスリードすることになってしまいます。
ということで、当事務所の顧問先の月次決算データを当てはめて検証してみました(汗)
顧問先データですから、費用構成と性格を理解しています。勘定科目法で固変分解し最も正確な変動比率、固定費額を計算することもできますので検証することができます。
実際に検証してみた
実験対象の属性はつぎのようなものです。
業種 | 小売業 |
---|---|
売上規模 | 250百万円 |
売上総利益率 | 月次を通じて安定的(限界利益率と見て問題ない) |
固定費 | 大半が販管費(店舗家賃と人件費が大半) |
検証結果は次のようになりました。
最小自乗法a | 勘定科目法b | 差異a-b | |
---|---|---|---|
限界利益率 | 秘密 | 秘密 | △11.5% |
固定費額(年) | 秘密 | 秘密 | 約△35,000千円 |
損益分岐点売上 | 秘密 | 秘密 | 約△28,000千円 |
限界利益率が11.5%違うというのは非常に大きな差異です。
この結果、固定費は3,500万円も過小に評価されてしまいました。また、損益分岐点も2,800万円も過小評価されています。
この差異は無視できるものではないと思います。このようなデータを意思決定にそのまま使うのは危険ではないでしょうか。
なんでこんなに狂うのか
最小自乗法によるCVP分析は恣意性がないとされますけど、固定費の増減を変動費扱いしてしまう可能性が常にあります。
EXCELで作成したグラフを見ているとサンプルデータが近いエリアに密集しているので計算誤差が大きくなるような気がします。
月次決算データによると売上高を示すX軸のデータが各月次で似たような位置に偏る傾向があるのではないか。
近似曲線の傾きは変動費率を示しますが、X軸のゼロ近辺から満遍なく分散していないと、傾きに与える影響が大きくなる傾向が強くなるのではないかということです。数学的統計的に正しいかは知りませんけどね(汗)
ただ、月次決算の売上と費用の関係で言えば、どうしても原点から平均売上までの間で満遍なくサンプルデータが分散しにくいと思われます。CVP分析に適用した場合、計算誤差が大きくなるような気がします。
経常利益ベースで近似曲線を計算した場合
最小自乗法によって損益分岐点分析を行い自社分析や他社分析を行うのはよいのですが、かなり大きな計算誤差が生じる可能性が高いことを理解のうえ行うべきでしょうね。
競合他社データのように入手困難なデータを分析するならまだしも、自社の本格的な財務構造の改革の参考値とするのは危険すぎます。競合他社分析でもお化粧がない保証はありません。
最小自乗法によるCVP分析ワークシート無料配布(粗品)
最小自乗法でCVP分析を行うためのEXCELワークシートを無償配布します。
12個(ヶ月)のデータがあることを前提としています。
自社の月次データで試してみるのもよし、競合会社や上場会社を分析してみるのもよしです。
12個のデータがない場合にはパラメータを修正する必要があります。
利用は自己責任でお願いします。
『高田直芳の実践会計講座 「管理会計」入門』
CVP分析が詳しく書かれている本というイメージで何となく2年ぐらい前に買った本なのですが、ずっと放置しておりました。
ふと、本棚を見て読んでみることにしました。
高田先生、オタクです!
最初は基本的なCVP分析のおさらい本かな?と思いつつ読んでおりましたが、どんどん深くなってきます。
CVP分析の落とし穴やポイント制のマジックあたりは痛快です。
書きぶりが独特で読み易さに配慮されていますけど、CVP分析をそれ相当に理解できている人でないと途中でついていけなくなるかもしれません。
教科書的な内容ではなく、実務で試行錯誤してきたからこその視点が随所に認められる実務家のための本だと思います。
ただ、後半は自分も飽きてきたのか、計算過程の説明がくどく感じられて読み飛ばしてしまいましたけどね。何を言いたいのかがわかればOKでしょう!
管理会計の導入を検討している会社、CVP分析に振り回されてしまった経験のある実務家や予算制度の導入・改善を検討中のみなさんにお勧めの本だと思います。