コラム

雇用促進計画の提出期限迫る

2011年9月30日 | 税金の基礎知識

平成23年10月末が期限

平成23年8月末に雇用促進税制が法制化されました。
雇用促進税制に関しては、当コラムで本年1月に詳細を報告しましたが、法制化の内容はほぼその通りでした。

雇用促進税制を適用するためには、事業年度開始後2ヶ月以内に「雇用促進計画」をハローワークに提出する必要があります。
法制化が震災等により遅延した関係で、特例が設けられていることに注意が必要です。

平成23年4月1日から同年8月31日までに事業年度を開始した法人については、この雇用促進計画の提出期限を平成23年10月末までとされています。

それ以降に決算日を迎える法人は順次、雇用促進計画の提出期限が迫ってくることになります。

たとえば、
9月決算・・・11月末
10月決算・・・12月末  ということになります。

3月決算から8月決算までの法人は、計画の提出期限が直前に迫っていますので要注意です。

節税のために雇用を計画するのはダメ

雇用促進計画を提出しておくことで、たまたま要件を満たすこともあるでしょう。
基礎的な要件を満たしているのに、雇用促進計画を提出し漏れていたことで雇用促進税制を適用できないのはよろしくないと思います。

しかし、税制上の恩典を得るために雇用を計画するのはお勧めしません。
人件費は非常に大きな固定費であり、一度雇用すると退職してもらうのに非常に苦労するものです。

先行き不透明な時代に、目先のメリットのために、固定費を抱えるのは経営者としてどうかと思います。このことを踏まえて以下をご覧ください。

どのような会社が対象になるのか

雇用促進税制適用要件を概観しておきます。

  1. 青色申告法人であること
  2. 適用年度とその前事業年度に、事業主都合による離職者がいないこと
  3. 適用年度に雇用者(雇用保険一般被保険者)の数を5人以上(中小企業者の場合は2人以上)、かつ、10%以上増加させていること
  4. 適用年度における給与等の支給額が、比較給与等支給額以上であること
  5. 風俗営業等を営む事業主ではないこと

わかりますか?
もう少し噛み砕いてみましょう。

法人税が発生しない会社では意味がない

雇用促進税制は法人税額からの税額控除を行う制度です。そもそも法人税の納税が発生しない会社では全く意味がありません。

たとえば、
・ 適用事業年度が赤字決算になる会社
・ 適用事業年度は黒字決算になるが青色繰越欠損金で所得が全額相殺されてしまう会社
では、法人税が発生しないので適用を検討する意味がありません。

事業主都合の離職者がいたらアウト

事業主都合による離職とは、いわゆる「会社都合」として退職・解雇をした場合です。
雇用保険を早期に受給したいとの理由で、従業員から「会社都合」扱いでの離職手続きを会社に求めることがあるようです。このような申し出を適用事業年度及びその前事業年度に会社が応じていた場合は適用を受けられないことになります。
会社としては解雇した意思がないけれど、書類上、事業主都合の離職処理をしたことがないかよく思い出してみる必要があります。

雇用者数の増加は純増を意味する

雇用者の増加としましたが、厳密には純増です。
すなわち、
当期末雇用者数 - 前期末雇用者数 ≧ 5人(中小企業は2人)
ということになります。

人数要件だけであれば、決算月にアルバイトを増員しても満額の適用を受けられることになってしまいます。いいんでしょうか?

雇用保険の一般被保険者の増加でなければならない

雇用保険は労働者を雇い入れた事業所が必ず加入しなければならない保険です。
しかし、適用事業所の登録手続きをしていない会社や適用事業所にはなっているけど全員を対象としていない会社が世の中には存在しています。
このように法令違反をしている会社は、雇用促進税制の適用を受けることはできません。

また、雇用促進計画の提出は、形式的受付(収受印をもらうだけで、内容の審査はしない)ですが、計画終了時に被保険者数の当否について確認が行われることになっています。この際、7月に行われる労働保険の確定申告との不整合が見つからないとは断言できません。

なお、役員は雇用保険の一般被保険者の対象ではありませんから人数から除かれることになります。ただし、使用人兼務役員は使用人分について雇用保険の一般被保険者になりますので人数に含めることになります。従業員を役員昇格させる場合には注意が必要です。

一定額以上の給与増額がなければならない

比較給与等支給額 = 前事業年度の給与等の支給額
 + 前事業年度の給与等の支給額 × 雇用増加割合 × 30%

要するに、

前年度対比給与増加額 = 前事業年度の給与等の支給額 × 雇用増加割合 × 30%

たとえば、前期の給与総額が4000万円(10人)、当期の給与総額が4500万円(12人)だとすると、
給与増加額=4500万円-4000万円=500万円
前事業年度の給与額×雇用者増加率×30%=4000万円×2人÷10人×30%=240万円
500万円 ≧ 240万円    ⇒ 条件を満たす

雇用促進計画の実態は労働保険加入者数の確認手続きに過ぎない

雇用促進税制を適用するためには雇用促進計画をハローワークに提出する必要があるわけですけど、この雇用促進計画にはどのような意味があるのでしょうか?

計画の遂行を事業者に求めるのであれば、増員計画の数値目標を達成できた場合に限り、税制上の恩典を与える!ということになるはずです。
しかし、条文上、計画の達成云々は記述されていません。

3人増員の計画を提出していて2人しか増員できなかった場合でも2人分の税額控除を認めることになりますし、同じく3人増員の計画を提出していて4人増員した場合は4人分の税額控除が認められることになってしまうのです。

結局のところ、

・ 厚生労働省としては、雇用保険の加入を促進したい(雇用促進計画2によりハローワーク利用による求人を確保したい)
・ 国税としては、雇用保険の加入を条件としてもいいけど、その正確性を確認する術がない

だから、ハローワークに事前に計画を提出させ、雇用保険加入実績を確認できたもののみ、税制上優遇しようということになったとしか思えません。

経営者としてはとりあえず出しとくぐらいの感覚で

上述の通り、雇用促進計画の計画値そのものに雇用促進税制の適用額は影響を受けません。
しかし、計画を期日までに提出しておかなければ、適用そのものを受けられなくなってしまいます。予算や事業計画のように、計画達成に向けて必死になる性格のものとは大違いだと認識しておいてください。

ということで、気楽な気持ちで「とりあえず出しとく!」と考えられたらよろしいかと思います。

雇用促進計画の雛形を見ると「社会保険労務士記載欄」というのがありますけど、社会保険労務士が作成しないと受理されないとか、社会保険労務士が作成した方が通りやすいといった書類ではありません。
労働保険被保険者数の確認手続きに過ぎないのですから。

また、計画作成にあたっては、
『目標増加数』を5人(中小企業は2人)としておくことです。
無理に多くする必要はありません。

必要書類と提出手続きは厚生労働省HPをご参照ください。





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