コラム

一般労働者派遣事業の更新で公認会計士監査を受けてはいけない

2011年10月6日 | 中小企業と経営 / 時事

平成23年10月1日以降の審査が変わる

一般労働者派遣事業を行う場合、新規許可または許可有効期間の更新をしなければなりません。
この場合の取り扱いが、平成23年10月1日以降変わりました。

決算年度末で資産要件を満たしていなかった場合、基準資産額が増加する旨の申立てが認められていました。
取り扱い変更後は、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間・月次決算書を提出すれば、その決算書に基づきあらためて資産要件を審査することになったのです。

事業年度末の決算の結果、基準資産額が2000万円未満になってしまった(資産要件の一部が満たされていない)場合、決算日後に純資産が2000万円以上になるように増資を行えば、許可更新が認められていました。
増資日までの損益状況や増資以外の要因による現預金の変動は考慮外とされていました。
もっというと、純資産の内容にまで踏み込んだ審査は行われていませんでした。

平成23年10月1日以降の審査では、単に増資しただけでは許可されないことになったのです。

公認会計士の監査証明を受けることの意味

公認会計士の監査は、税理士業界でしばしば使われる「(巡回)監査」とは意味が全く異なります。
(巡回)監査というのは、税務上の損金算入要件を満たす資料が整備されているかを確認点検しているに過ぎません。決算書全体の適正性については何ら保証するものではないのです。税務上の損金算入要件の確認にしても、税理士がその責任を負担するものではありません。

これに対して公認会計士の監査は、財務諸表(決算書)全体が会計基準に準拠して適正に作成されていることを証明する行為です。監査証明を行った公認会計士は、会計基準と監査基準に拘束され、決算書の重大な記載誤りに対して損害賠償責任を負担することになります。

すなわち、公認会計士の監査は預金残高が1500万円以上あることを確認しました!では済まないのです。基準資産(純資産)が審査対象になっている訳ですから、監査人としては当然に決算書全体を確認しないわけには行かないのです。
監査基準では、決算日を基準として実査・立会・確認を実施すべき監査手続きとして定められています。基準日以後に監査契約をしても監査証明を発行することができないことになっています。
加えて、架空資産の有無、不良債権の評価減の要否、在庫の評価の当否、簿外債務の有無、期間帰属、引当金の要否などを確認し、これらが適正に処理されていなければ、無限定適正意見を出すことができません。

(巡回)監査とは質的に全く異なるものだということをよく理解しておく必要があります。
顧問税理士が毎月監査を行っているから、公認会計士監査も大丈夫だろうと思ったら大違いということも十分にありえるのです。
たとえば、(未監査の)通常の決算書で2000万円であった純資産が監査によって△2000万円(債務超過)になってしまうことも十分にありえるのです。
しかも、監査報酬が10万円程度で何とかなるのではないか?なんて考えてはいけません。会社の規模にもよりますけど、10万円を軽く超える可能性がありますので注意しなければなりません。

当局は一般派遣事業を行う会社を淘汰しようとしているのかも

一般労働者派遣事業の審査方法で決算日の決算書が資産要件を満たしていない場合の救済方法として公認会計士の監査を定めたのはなぜでしょうか。
現預金額1500万円以上、純資産額2000万円以上という基準はそれほどハードルが高い要件ではありません。このほか純資産が負債総額の1/7以上という要件もあります。自己資本比率に換算すると12.5%ですからこれまたそれほど高いハードルではありません。

一部の大企業でなければ達成不能なハードルを設定している訳ではないのにこれをクリアーできない会社は、一般労働者派遣事業を行う適格性にそもそも問題があるという考えが根底にあるのだと思います。公認会計士監査のハードルを越えられる会社だけ審査の対象にする意図が当局にはあると考えるべきでしょう。

なにがなんでも事業年度決算で要件をクリアーする

救済措置ではあるのですけど、事実上このハードルを中小企業が超えるのはかなり厳しいと思います。
そうであるなら、救済対象にならないで済むような決算を絶対に行うべきです。これができなければ派遣事業は廃業とすることも覚悟しなければならないと思います。

手元現預金残高が決算日にいくらになるかは比較的試算しやすいと思います。
純資産がいくらになるかは月次決算を的確に実施し、決算予測をすることである程度は予想できるはずです。

もし、役員借入金が多額に負債計上されているのであれば、決算日前にDES(デットエクイティースワップ=借入金の現物出資)で賄えないかを検討すべきでしょう(DESに関しては法人税の特別な取り扱いがあるので注意が必要です)。それでも足りないときには金銭出資を検討しなければならないかもしれません。
あるいは、決算に向けてもうダッシュの営業を掛けたり、保険を解約するのも方法です。

とにかく、決算での資産要件を満たさなかったので会計士監査!という発想を捨て、決算で何がなんでも資産要件をクリアーさせるという強い意思が必要です。

税理士との打ち合わせは決算日が過ぎてから、、、というルーティンになっている会社は要注意です。決算は決算日前から始まっているものです。

 

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悪しからずご了承ください。





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