コラム

最小自乗法と損益分岐点分析(CVP分析)

2012年5月23日 | 管理会計

最小自乗法による損益分岐点分析はどの程度の正確さがあるのか?

『高田直芳の実践会計講座 「管理会計」入門』をご紹介しましたが、その中で最小自乗法による損益分岐点分析が紹介されていました。
大変興味深い話です。この計算にある程度の精度があるのであれば、中小企業でも活用できる局面が多々ありますからね。たとえば、帝国データバンクや東京商工リサーチの信用情報を基礎として競合会社の固定費の状況や損益分岐点を計算できたりしますからね。

ところが、著者の高田先生は、変動費率がマイナスになるなど異常値がはじかれることもあると指摘されています。いい数字がはじけることもあれば、そうではないこともあるというのでは困ります。いい数字だと思っていた数字でも実態を現していないのであれば、意思決定をミスリードすることになってしまいます。

ということで、当事務所の顧問先の月次決算データを当てはめて検証してみました(汗)
顧問先データですから、費用構成と性格を理解しています。勘定科目法で固変分解し最も正確な変動比率、固定費額を計算することもできますので検証することができます。

実際に検証してみた

実験対象の属性はつぎのようなものです。

業種 小売業
売上規模 250百万円
売上総利益率 月次を通じて安定的(限界利益率と見て問題ない)
固定費 大半が販管費(店舗家賃と人件費が大半)

検証結果は次のようになりました。

最小自乗法a 勘定科目法b 差異a-b
限界利益率 秘密 秘密 △11.5%
固定費額(年) 秘密 秘密 約△35,000千円
損益分岐点売上 秘密 秘密 約△28,000千円

限界利益率が11.5%違うというのは非常に大きな差異です。
この結果、固定費は3,500万円も過小に評価されてしまいました。また、損益分岐点も2,800万円も過小評価されています。
この差異は無視できるものではないと思います。このようなデータを意思決定にそのまま使うのは危険ではないでしょうか。

なんでこんなに狂うのか

最小自乗法によるCVP分析は恣意性がないとされますけど、固定費の増減を変動費扱いしてしまう可能性が常にあります。

EXCELで作成したグラフを見ているとサンプルデータが近いエリアに密集しているので計算誤差が大きくなるような気がします。
月次決算データによると売上高を示すX軸のデータが各月次で似たような位置に偏る傾向があるのではないか。
近似曲線の傾きは変動費率を示しますが、X軸のゼロ近辺から満遍なく分散していないと、傾きに与える影響が大きくなる傾向が強くなるのではないかということです。数学的統計的に正しいかは知りませんけどね(汗)
ただ、月次決算の売上と費用の関係で言えば、どうしても原点から平均売上までの間で満遍なくサンプルデータが分散しにくいと思われます。CVP分析に適用した場合、計算誤差が大きくなるような気がします。

経常利益ベースで近似曲線を計算した場合

 

最小自乗法によって損益分岐点分析を行い自社分析や他社分析を行うのはよいのですが、かなり大きな計算誤差が生じる可能性が高いことを理解のうえ行うべきでしょうね。
競合他社データのように入手困難なデータを分析するならまだしも、自社の本格的な財務構造の改革の参考値とするのは危険すぎます。競合他社分析でもお化粧がない保証はありません。

最小自乗法によるCVP分析ワークシート無料配布(粗品)

最小自乗法でCVP分析を行うためのEXCELワークシートを無償配布します。
12個(ヶ月)のデータがあることを前提としています。
自社の月次データで試してみるのもよし、競合会社や上場会社を分析してみるのもよしです。
12個のデータがない場合にはパラメータを修正する必要があります。
利用は自己責任でお願いします。





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