コラム

とんでも決算書3

2009年10月26日 | 資金調達と決算書

12月決算だったこの会社は決算業務を税理士繁忙期に行わなければなりませんでした。このタイミングは所得税の確定申告を大量に扱っている税理士にとって超繁忙期にぶつかってしまいます。決算のたびに繁忙期だから優先順位を下げざるを得ないと税理士に言われ、決算期変更を求められていたそうです。

会計事務所と12月決算

12月決算の会社は、申告期限の延長手続をしていない限り、翌年の2月末日までに決算を確定させ確定申告しなければなりません。
一方、所得税の確定申告は毎年2月16日から3月15日までに行わなければなりません。そればかりか12月から1月にかけて年末調整、市区町村への給与支払報告書の提出、償却資産税の申告などかなりの負担が会計事務所にかかっています。会計事務所の中には大量の所得税確定申告を請負っているところもあり、こうした事務所にとって12月決算は大きな負担となりやすいものなのです。
こんなとき決算期変更してもらえませんか?という会計事務所からのリクエストが出ることも考えられます。

決算期を6月決算に変更

会計事務所のアドバイスに従ってこの会社は6月決算に決算期変更したそうです。6月決算は会計事務所にとっては3月決算が収束し事務量が大幅に減少するタイミングになります。決算作業も余裕をもって取り組める時期でもあります。
この会社にとって12月は売上のピークを越えたタイミングでした。そして、6月はどうあがいても売上をたて難い時期でもありました。むしろ、12月の納品に向けて仕込みを行う時期で材料費や外注への支払がかさみ、資金を寝かせなければならない時期でもあったのです。資金繰り的には、夏季賞与の支給直前であり、前年度実績に基づき計算される法人税や消費税の中間納付の直前でもあります。さらに、変更した6月決算分の法人税と消費税の納税時期が重なることにもなります。
この会社は毎年7月に銀行から短期資金を借入し、12月納品の売上金回収時期に返済を行うというサイクルで資金を回転させていました。

例年通り融資を申し込む

社長は必要運転資金の融資を決算作業中の7月にメインバンクに申込みしたそうです。
その際に決算期変更していることも融資担当者に伝えたところ、「決算書を提出してもらいたい」「融資実行はそのあとでお願いしたい」と言われたそうです。
融資にあたって銀行は原則として決算書の提出を求めてきます。決算間際の場合、直前の試算表で代替されることも多いのですが、金融機関によってスタンスが若干違うこともあります。この会社では他に何か事情があったのか、決算書の提出を求められてしまったのです。

社長は会計事務所にその事情を伝え、決算作業を急いでもらいました。

赤字決算と多額の在庫

会計事務所から出来上がってきた決算書は、赤字決算と言う内容でした。しかも、後半戦に向けて仕込んだ原価が在庫として多額に計上されていました。
前にも書いたようにこの会社の売上のピークは12月でした。6月は12月に向けた仕込みの時期。年の前半戦は赤字で推移し、後半戦で取り戻す。そういうサイクルを10年繰り返してきたのです。事業サイクルからみれば仕方がない結果です。
社長は受領した確定申告書と決算書類一式を税務署に提出し、収受印付の申告書控えを銀行に提出したのです。

この決算書に対する外部の評価

一言で赤字決算といってもそう単純な話ではありません。外部がどのように評価するかを考えておかなければなりません。
6ヶ月決算であるため売上高は前期との単純比較では35%に減少していたのです。年率換算を単純に行うと30%の減収、すなわち平均月商も30%減少していることになってしまいます。
これまでに融資を受けた経験のある経営者であれば、月商を基準に融資されることがあることをご存知だと思います。そしてその月商は決算書や試算表から単純計算されるものなのです。運転資金であれば月商の2か月分、、、といった具合のアレです。
要するに月商を目安とする融資の場合、融資可能額が30%分目減りしてしまったのと同じということです。
また、在庫が月商に比べて多くなるということは在庫回転率が落ちる訳で、正常な在庫であったとしても不良在庫を懸念されたりすることもあります。
このような形式的な事実が出来上がってしまうと融資担当者は実態とは違うことを行内で説明しなければならなくなります。要するに手間がかかる融資ということで、従来よりも不利な融資申込みになったということでもある訳です。

決算書の寿命?

銀行融資の最重要書類は言うまでもなく決算書です。融資審査では2期分の決算書を提出するのが原則ですから、今回の決算書は翌年の決算が確定するまで亡霊のように纏わり着いてくることになるのです。今回の決算書が2期前の決算書ととなってしまえば、年末の売上が織り込まれた決算書が直近となり、前年対比で売上及び利益が増加したトレンドを作ることができます。業績悪化がない限りそれほど気にする必要はなくなることでしょう。

今回のように期中に季節変動があるような会社が決算期変更を行わざるを得ない場合には、(融資担当者が稟議書を書きやすいように)事情の説明を添付して決算書を提出するぐらいの配慮をしておくべきだったと言えるでしょう。

てん末

気になるてん末ですが、この会社はメインバンクとのお付き合いが長かったこと、融資担当者が一生懸命事情説明を行内で行ってくれたこともあって、融資希望額の満額とは行きませんでしたが希望額の10%減で融資を受けることができました。

最後に言っておきますが、この会社にアドバイスした会計事務所はうちの事務所ではありません。うちは顧問先の資金サイクルや事業特性を総合的に考えて決算期の決定をアドバイスしています。

今回の教訓

  • 決算期は会社の都合で決めるもの
  • 変えるのは決算期ではなく会計事務所かもしれない
  • 決算期変更は資金循環も考えて行う
  • 会計事務所は資金繰りのプロとは限らない
  • 決算書は亡霊のように付き纏う




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