とんでも決算書4
2009年11月2日 | 資金調達と決算書
決算書は融資審査で重要視される書類です。銀行はその年度の決算内容だけではなく、前年対比や比率分析を行い、それぞれの会社の経営状態をチェックしています。決算書のトレンドもポイントということになります。
売上総利益率が大幅に低下した決算書
この会社の損益計算書では、売上はほぼ横ばいなのに赤字決算となっています。
この決算書を銀行に提出してから銀行の対応が急激に変化し、融資申込みに対しても消極的になってしまったというのです。
原因は何か!?
決算数値を見ると売上原価が著増していることにすぐ気がつくと思います。銀行はその原因を気にしているのは間違いありません。さてさてその原因はどのようなものだったのでしょうか?
残骸に耐えかねた税理士
社長に原因になりそうな事情を聞いてみました。
すると社長はぼそぼそと話してくれました。
3年前から業績が悪化し始め、決算で在庫の水増しをしていたとのことです。
税理士からはそのような処理はしてはいけない!と毎期指摘されていたのだけれど、赤字決算にすると銀行融資が受けられなくなる心配があるので、無理を言ってそのような処理をしてもらっていたというのです。
ところが、
『今回の決算で税理士に例年のようなことはできない!』
『どうしても行うのであればハンコは押せない!』
そう強く言われたそうです。
税理士のハンコのない確定申告書を税務署に提出するのも怖いので、仕方なしに税理士の指導に従うことにしたとのことでした。
そしてできあがった決算書が上記のものだというのです。
『御社の粗利率は7%が実態なのですか?』
『そんなことはありません。
以前よりも悪くなりましたが、20%ぐらいはあるはずです。。。』
残骸の後始末の仕方
社長は粗利率が20%だといいます。
これに対して決算書の粗利率は7%。
貸借対照表を2期分比較してみると在庫が2,000万円ほど減少していることがわかります。
おわかりですか?
過去に行ったお化粧の残骸を売上原価として費用処理した可能性が高いのです。
『税理士からどのような説明を受けましたか?』
『すべて税理士の先生にお任せしていますので、細かいことは、どうも。。。』
社長は税理士に決算処理を一任していた訳です。
そして、税理士は、過去のお化粧分もこの年度に一掃する処理を売上原価で行った可能性が高いといえます。社長は経理的なことが苦手で処理結果をよく確認しないまま決算を確定してしまったようです。
ロジックは次のようになります。
利益を増加させる
⇒費用(売上原価)を少なくする
⇒売上原価を少なくするために、支出済みの仕入を在庫(資産)に振り替える
⇒実体のない在庫(資産)が膨らんで、売上原価が過小に計算される
お化粧をリセットする
⇒資産(在庫)を減らす
⇒在庫の減少分を売上原価に含める
⇒売上原価がその年度分として考えると過大になる
⇒粗利益率が圧迫される
元々過去の年度で売上原価にすべきものを在庫計上することで利益捻出していたのだから、取り消すときも本来計上されるべきであった売上原価に計上するという理屈なのでしょう。また、売上原価は大量の取引が集計される勘定科目なので、このような処理をしてもぱっと見はわかりにくいということなのかな。
ホントに正しい処理なのか?
そもそもやってはならない会計処理を行ってきたわけですから、後始末をどのようにするのが正しいかという議論をすることが本来おかしな話です。
しかし、上記のような処理は粗利益と営業利益を圧迫します。
粗利は本業の儲けを示すものですし、営業利益は経費を賄ったあとの本業の儲けを意味します。営業利益が赤字ということは、商売自体がキャッシュを生んでいない訳で、借入金を返済する能力が全然ないことになります。そのままの状態が続けば、元本返済で手元資金がなくなってしまいます。
当然、銀行はこういうところを見ています。
粗利や営業利益を過小表示することは銀行関係を確実に悪化させることになるものです。もちろん、実態が赤字であるところを黒字に見せるのも当然問題です。
お化粧によって資金繰り環境を確保すると、事業構造の転換に手を打つのが遅れる傾向にあります。手元資金があるので安心してしまうのでしょう。
事業を行っていれば、いいときもあれば悪いときもあるものです。悪いときには表面を取り繕うのではなく、根本的な問題がどこにあって、それを解決するための施策を実行しなければなりません。
経理が苦手という経営者は意外と多くおられますが、苦手だから税理士にお任せと言うのも、資金繰りは銀行融資に頼るというのでも困ります。
どうすればよいかが判断しかねると思った段階で税理士に相談すべきだったのでしょう。決算日を過ぎてからじたばたしても手遅れなのです。
銀行借入の水準にもよりますが、
・そもそもお化粧を行うべきではなかった。
・お化粧を取り消すのであれば、万全の準備をして特別損失処理すべきだったのかもしれません。
今回の教訓
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