とんでも決算書5
2009年11月9日 | 資金調達と決算書
黒字のつもりだったのに、決算を締めてみたら赤字だった!(あるいはその逆)
決算日が過ぎてからバタバタと決算対策をしなければならなかった!?
そんな経験はありませんか?
月次決算の経理方法
経理処理の方法には現金主義と発生主義というものがあります。現金主義は現金が動いたときに会計処理する方法です。これに対して発生主義は取引が発生したとき、たとえば注文した品物が納品されたときに支払いはしていなくても会計処理する方法です。
財務会計も税務会計も、収益に関しては実現主義を、費用に関しては発生主義により会計処理することとしています。ただし、これら財務会計・税務会計は年次決算について処理方法を規定したものであって、ひとつひとつの会計処理を実現主義や発生主義で行わなければならないと定めているわけではありません。
結果として年次決算でこれらの基準を満たしていれば良いということです。ですから、個々の会計処理や月次決算段階では現金主義で会計処理を行い、年次決算の決算整理として現金主義と発生主義のズレを修正するといった実務も認められます。
月次試算表では利益が出ていたのに、、、
経営者のみなさんは自社の試算表で会社の業績と財務の状況を確認されていると思います。その際、その試算表がどのような経理方法によって作成されているかも併せて理解していないと思いも寄らないことになりかねません。
月次試算表では現金主義によって会計処理をしていたため、決算で発生主義とのズレを調整する処理を入れた途端、損益の状態が一変してしまうことも十分にありえるからです。
たとえば、現金主義と発生主義とでは次のような差異が生じます。
入金済みの売上が1,000、納品済みだけれど未入金の売上が200ある場合、
現金主義での売上 ⇒ 1,000
発生主義での売上 ⇒ 1,200(=1,000+200)
入金済みの売上が1,000(ただし未納品の前受分が300)、納品済みだけれど未入金の売上が200ある場合、
現金主義での売上 ⇒ 1,000
発生主義での売上 ⇒ 900(=1,000-300+200)
仕入についても同様です。
前期に納品済みの買掛金を300当期に支払い、当期分の仕入代金が600である場合、
現金主義での売上 ⇒ 900(300+600)
発生主義での売上 ⇒ 600
前期に納品済みの買掛金を300当期に支払い、当期分の仕入代金が600、納品済みだが未払の買掛金が200ある場合、
現金主義での売上 ⇒ 900(300+600)
発生主義での売上 ⇒ 800(600+200)
売上や仕入を現金主義で行っていた場合のインパクトは現金商売でない限り予想外に大きなものとなってしまうものです。現金主義と発生主義の問題は人件費ほかの経費についても同様のことが言えます。
現金主義とは別次元のではあるのですが、店舗のリニューアルをしても旧内部造作の除却処理を月次で織り込んでいないため、決算を締めるまでどういう利益になるのかいつも不安だとこぼされる小売店の社長がいらっしゃいました。月次決算をどのように行うか、年次損益の予測を行えるように期中の管理を行っていくことは非常に大切なことです。
決算日後に締まった試算表は赤字だった
期中の試算表では黒字だったのに決算整理を行ったところ赤字決算になってしまった。黒字決算が予想されるので、決算賞与を支給したのに赤字幅が拡大してしまった。
これらは月次決算と決算予測が十分に行えていなかった場合に起こりがちなことです。
決算日前であれば、それも決算日の3ヶ月前にわかっていればこんなことはしなかった!?
そうは言うものの決算日が過ぎてしまっているわけで、打てる手は限られてしまいます。
どうしても赤字決算にはしたくないという思いで、試算表と睨めっこしたことはありませんか?ある社長が仰っていました。
「この交際費に計上されている300万円をなかったことにできませんかね?」
この意味、わかりますか?
社長がその金額をかぶるという意味です。もう少し言うと、会社で経理処理した交際費の領収書をなかったことにする。支払いは既に行われているので、会社が支出した分は社長に対する貸付や仮払として経理処理するということです。このような処理をすると確かに経費が減少して利益の上昇要因になりますが、その分実態があるのかないのか微妙な貸付金等が資産に計上されることになります。緊急避難としてはなくもないのでしょうけれど、本質的な解決にはなっていませんね。
多額の役員貸付金や仮払金を税務署は問題としないでしょうけれど、銀行はその回収可能性を気にします。帳簿操作だけの問題ではなく、実質的に社長がそのお金を負担しない限り解決しないということです。
月次決算を組めばよいと言うことではない
以上のように、同じく月次決算を行っていてもその処理方法や精度によって利用価値がまったく異なってしまいます。
現金主義と発生主義のズレを社長がいちいち気にしながら試算表を読んでいるというのも無駄なことですし、発生主義の処理はそれほど難しいものではありませんから、全体の利益に重要な影響を及ぼす項目に関しては可能な限り発生主義で行うべきでしょう。だからと言って、厳格で処理精度の高い月次決算を行うために経理の専門家を入社させると言うのもどうかと思います。
何事もバランスが重要です。
月次決算の精度も経営のバランスのひとつと言えます。
今回の教訓
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