とんでも決算書6
2009年11月16日 | 資金調達と決算書
工場設備や什器備品、パソコンなどの費用化は少額のものを除いて減価償却を通じて行われます。今回はこの減価償却費と決算書の関係についてみてみましょう。
この決算書をどう思いますか?
このような決算書をご覧になったことはありませんか?
減価償却費が利益に連動するかのように増減しています。
ここで予想できるのが、赤字にならないように、同時に黒字になっても税金が多額にならないように減価償却費を調整している!?ということなのです。
減価償却費とはどのようなものか
減価償却費は固定資産の取得価額を規則的に費用化していく手続です。たとえば、車両のような資産は取得価額が多額である一方、何年も使用することができますから、取得年度に一括で費用処理するのは適切ではなく、使用可能期間にわたって費用化すべきものと考えられているわけです。償却額の計算方法には定率法や定額法などが認められており、一部の資産を除いて会社が定められた方法から選択することができます。このように減価償却によって取得価額を費用化していく資産を減価償却資産といいます。
減価償却資産は、
・ 取得時に一括で費用処理することができない
・ 耐用年数と償却方法によって各年の償却額が決まる
・ 取得時に取得代金が支出されるため、償却費と資金に連動関係はない
・ 償却費は資金支出を伴わない費用であるため、毎年その分の費用が社内に留保される
という特徴があるわけです。
損金経理要件とは何か
減価償却費は法人税法上も費用として処理することが認められています。ただし、無条件に認められるわけではありません。
・ 税法が定める計算方法による限度額まで各年度で費用化が認められる
・ 「損金経理」していなければならない
2つ目の条件を損金経理要件と言います。どういうことかというと会計帳簿で「費用として計上する」ということです。逆に言えば、「費用計上しなかった償却費は限度額以下であったとしても税務上も費用にならない」ということなのです。しかも、費用処理しなかった償却費は翌年度以降、その年度の限度額までは費用処理することが認められています。切り捨てられるわけではないのです。
法人税だけを考えると、
・ 利益が出る年度では限度額いっぱいまで償却費を計上する
・ 利益が少ない、あるいは赤字の年度は償却費を計上しない
という処理も正しい!?とも言えるわけです。
冒頭の決算書はこうした処理を行った可能性があるということなのです。
銀行はここを見ている
減価償却資産は償却費の計上を通じて費用化されます。償却費は支出を伴いませんから、効果的には償却費相当額が事後的に会社にプールされることになります。
一方、減価償却資産はいつまでも利用可能なわけでもありません。いずれ買い換えるなどの対応が必要となります。それまでに償却が終わっていなければ、買い替え用の資金は会社にプールされていないことにもなりますし、中古で売却したとしても帳簿価額に見合う売却代金は得られないのが通常です。買い替えが必要な資産の償却をストップするといずれその分の資金不足が生じてしまいます。
また、減価償却資産の取得代金を融資金でまかなっていた場合、償却費相当額が弁済まわされても、会社の手元資金は減少しないことになります。償却をあと送りにしていると手元資金を減少させることで返済をしていることになるわけです。
そこで、非常に単純な計算として、
年間元本返済額 < 経常利益 + 減価償却費 ⇒ 事業による弁済能力あり
年間元本返済額 > 経常利益 + 減価償却費 ⇒ 事業による弁済能力怪しい
利益が出ていれば銀行対策は大丈夫、といった考えは通用しません。
減価償却費による決算対策を行っておられる方はご注意ください。
今回の教訓
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