コラム

一人オーナー会社(特殊支配同族会社)の役員給与に対する損金不算入措置の廃止

2010年1月13日 | 税金の基礎知識 / 起業支援

平成22年度税制改正大綱に、一人オーナー会社の役員給与に対する損金不算入制度の廃止が明記されました。
これまで多くの中小企業が苦しめられてきた制度のひとつが廃止されるのはよいことではありますが、手放しに喜んでよいことなのでしょうか!?

平成22年度税制改正で廃止が決定されましたが、、、

平成22年度税制改正大綱で特殊支配同族会社の役員給与に対する損金不算入制度の廃止が明記されました。税制改正大綱の段階なので正式決定というわけではありませんが、これに準拠して法案が作成され国会決議されることはほぼ間違いありません。これを受けて巷では悪法が廃止されるとばかりに宣伝されています。税理士業界の業界紙でも念頭のトップ記事として取り上げられていました。
しかし、税制改正大綱本文には次の文章が併記されていることを無視してはいけません。

『特殊支配同族会社の役員給与に係る課税のあり方については、いわゆる「二重控除」の問題を踏まえ、給与所得控除を含めた所得税のあり方について議論していく中で、個人事業主との課税の不均衡を是正し、「二重控除」の問題を解消するための抜本的措置を平成23年度税制改正で講じます。』

「二重控除」の問題とは何か

経済産業省WebSite
(参考資料)平成22年度経済産業省関係税制改正P13から引用

http://www.meti.go.jp/main/downloadfiles/zeisei22/091222aj.html

二重控除の問題とは何を意味するのでしょうか。
上図のように法人税の課税所得の計算ではオーナーの役員給与は原則として損金として取り扱われます。一方、オーナーへの役員給与は、オーナーの所得税計算の対象となります。ここまでは当たり前の話なのですが、オーナーの所得が給与所得であるため、「給与所得控除」が別途認められることになります。二重控除といっているのは、法人税の計算で控除されたオーナー役員給与について所得税の計算で再度給与所得控除が認められているのが問題だということなのです。やはりわかりにくいですね。
個人事業主の所得は事業所得になりますので、給与所得に認められている「給与所得控除」という控除枠がありません。実態が同じなのに個人事業として行うか法人事業として行うかで、給与所得控除相当額だけ課税ベースにズレが生じるのは不公平だという議論が「二重控除」の問題なのです。

なぜ今頃問題となっていたのか

オーナー会社は実質的に個人事業と同じようなものなのだから、個人事業主には認められていない給与所得控除を、ただ法人化しただけの会社のオーナーにメリットとして享受させるのは不公平だ!という理屈のようです。

ところが、特殊支配同族会社の役員給与への一部課税といった制度ができたのは平成18年度でした。会社法が施行されたのが平成18年5月1日です。会社法は旧商法で定められていた最低資本金制度を全面的に廃止し、会社を設立する際の資本金(1,000万円あるいは300万円)を準備するというハードルがなくなりました。当局はこの枠組みの変更で個人事業が一気に法人化(法人成り)して給与所得控除の適用対象となることを懸念したと理解することができます。懸念通りになれば当然に税収も減少することになります。

しかし、法人事業で行うのと個人事業で行うのとではいずれが税務上有利かという議論は会社法施行前から存在していました。旧商法下では確かに起業にあたり何としても法人としてスタートしたい、できることなら有限会社ではなく株式会社としてスタートさせたいと考え、必死に資金調達される起業家が大勢おられました。現在はこのような努力をしなくても誰でも会社設立ができてしまうので給与所得控除を利用した節税!?が大々的に行われてしまっては困るということなのでしょうね。

法人税課税から所得税課税へ方向転換

今回廃止されることとなる一人オーナー会社の役員給与の損金不算入制度は、実質的に個人事業主と変わらないとみなされた小規模会社の社長に対して控除が認められていた給与所得控除相当額を法人税の計算上損金不算入とするというものでした。このようにすることで法人税と所得税の合算ベースでの課税対象所得を個人事業主と同じにしようというものです。要するに本来所得税として課税されるべき課税所得を法人税として徴収しよう訳です。確かに歪んだ課税方法です。

ここで冒頭に挙げた税制改正大綱の一部をよくみてみて下さい。恒久的に課税しないといった趣旨のことは一切記述されていません。

「給与所得控除を含めた所得税のあり方について議論していく中で、(中略)「二重控除」の問題を解消するための抜本的措置を平成23年度税制改正で講じます。」

要するに、「法人税としての課税は止めるが、所得税として課税させてもらいます」と読むこともできます。政府から公表された文章には、「廃止する」との表現に必ずセットになって上記の付記文が記されています。手放しに減税になるという訳ではなさそうです。

所得税として課税するためにはどのようにするのでしょうか。規制対象とみなされる会社の社長に確定申告を求め、その計算過程で給与所得控除を認めないことにするのかもしれません。
所得税の確定申告書だけでは、その人が得た給与所得が規制対象とみなされた会社から得たものか否かを判別することができません。会社の法人税確定申告と個人の所得税確定申告は物理的に分離されているのでこれを紐付けするのは計算技術上困難を伴います。だからこそ法人税課税という歪んだ手法が採用されたように思えてなりません。いずれにしても来年の今頃には、何らかの形で「二重控除」問題解決のための方法が公表されているのでしょう。
零細中小企業を苦しめていた一人オーナー会社に対する役員給与の損金不算入制度が廃止になったと、手放しに喜んでいられる訳ではないということを認識しておくべきでしょう。

そもそも「給与所得控除」とは何か

給与所得控除は給与所得者(サラリーマン)が負担する経費を概算で所得から控除しようとするものです。給与所得者もスーツや靴が仕事上不可欠であるほか、専門知識や経済動向を理解するための書籍を必要とするだろうし語学講座などで自己研鑽しているのだから、これらの支出を給与獲得のための経費として認めましょうというわけです。しかも、実費を確定申告させるのは物理的に不可能なので一定のテーブルによってその経費分を概算計算して給与収入から控除することとされています。

サラリーマンの概算経費である給与所得控除を年収ごとに大まかに計算してみると上表のようになります。みなさんはどのように思われますか?年収500万円の給与をもらうために不可欠な費用を毎月12万円以上支出されているサラリーマン家庭は平均的なのでしょうか。。。子供手当よりも遥かに多額です。
個人事業主は必要経費を事業所得の計算上費用としているのだから、給与所得者にも同様の控除が認められるべきだということなのでしょうか。個人事業主の場合、確かに事業に必要な書籍代等は必要経費にすることができますが、ここまでの金額を支出しているケースは稀だと思います。高級腕時計など、事業に不可欠とはいえない物品の購入費を経費扱いしていたら間違えなく税務署に怒られます。
もはや、給与所得控除は、給与所得者の生活補助目的の控除になっているとしか思えません。

起業家の足を引っ張るような税制は止めるべき

起業には多大なリスクを伴います。起業当初は社会的な信用は必ずしも高くなく、事業を立ち上げるまでに幾多の困難を越えていかなければなりません。
確かに多くのリスクを軽減するために起業を法人としてスタートし、あるいは法人成りすることで、コスト(税金負担)を軽減したいと考えるかもしれません。
しかし、90%以上の資本を拠出して起業する個人の事業がいったいどれほどの影響があるのでしょうか。現在のような景気の中で100人が起業してそのうち何人が年収2000万円以上をとれるようになるのでしょうか。零細企業であるうちはいつ資金ショートするかビクビクしながらの経営です。経営者個人の経済的な体力を蓄積しなければならないし、会社自身の内部留保も充実させていかなければ、新しいビジネスは生まれないし、雇用機会も増やせないのではないでしょうか。

むしろ、超高額所得者に対する給与所得控除の方がどうなんでしょうか???と思います。給与所得控除の上限を設定するなどすれば、起業された事業がある程度の規模に達すれば、自動的にたくさん納税してくれることになるのではないのでしょうかね。

いずれにしても平成23年度税制改正でどのような方向で今回の法人税法改正が復活するのか注視する必要があります。





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