資本金1億円超の会社で赤字が見込まれる場合の節税
ベンチャービジネスとして第三者資本を導入している会社にありがちなお話です。
外形標準課税を多額に納税していませんか?
ベンチャーキャピタル等に第三者割当増資を行って資金調達することがあります。資金調達しているときはできるだけ多額の資本導入ができるように調整されることでしょう。その結果、資本金が1億円超になってしまうことは十分にありえることです。
資金調達段階では調達額と株主シェアを優先的に考えているため、調達後のことは二次的にしか考えていないことも多いと思います。
税法的には資本金が1億円超か1億円以下かで世界が異なってきます。
まず、最初に直面するのが事業税の外形標準課税問題です。資本金が1億円超の会社は無条件に外形標準課税という制度が適用され、最低でも資本金と資本準備金の合計額の0.21%が課税されてしまうのです。
たとえば、資本金と資本準備金の合計額が3億円だとすると毎年63万円が資本割として課税されることになります。この資本割は会社の課税所得がゼロであったとしても必ず納税しなければならないことになります。
第三者から調達した資金に対して問答無用に課税されるのが外形標準課税なのです。
ベンチャーキャピタルはIPO(株式上場)等によるキャピタルゲインを目的として投資しているわけですが、仮に投資後IPOまで5年かかるとすると315万円分の外形標準課税が課税されてしまうことになります。投資金額の約1%にもなってしまう訳です。
これは結構大きな負担です。
投資家は事業を立ち上げ大きなビジネスにするために資本提供したのに、投資金が税金に吸い上げられてしまうのは釈然としないことでしょう。経営者も納税分を消化する利益を計上できなければIPOすることができません。株主からはIPOに向けたプレッシャーが年々強くなることでしょう。
外形標準課税の節税はできないのか!?
外形標準課税は、大規模法人に、その組織規模に応じた固定負担を求める代わりに、利益に連動する税(所得割)を軽減する仕組みとして設計されています。
十分な利益を毎年計上できる会社は、外形標準課税導入の恩典を受けているといえますが、外部資本をそれなりに集めて新規事業を行おうとするベンチャービジネスにとっては大きな負担となってしまいます。
何とかならんのか!?
極々当然な発想です。
外形標準課税に対する節税は実は可能です。
外形標準課税は資本金1億円超の会社だけに適用される
外形標準課税には免税点が設けられています。この免税点は、資本金を基準として定められており、決算日現在の資本金の額が1億円超の会社に対してのみ適用されることになっています。
「資本金」の額というところがポイントです。払込資本のうち資本金に組み入れなかった額(資本準備金)は含めて判定しません。
要するに資本金が1億円以下であれば適用されません。
設立後や増資後の資本金の取り扱いは会社法で変更されました。旧商法下では資本金の取り崩し(減資)を行う場合には、その目的に制限がされていましたが、会社法では減資目的は問われないことになっています。
資本金が1億円を超えている場合で、外形標準課税の負担が重く、これを節税したいなら、減資を行えばよいということになるのです。法律が定めた手続きに準拠して行う減資であれば、租税回避云々ということにはなりません。合法的な節税です。
減資は可能だが手続きは厳格に!
会社法では減資によって資本金をゼロ円にすることも認められています。設立時と増資時には払込資本の50%以上を資本金としなければなりませんが、一度資本金に組み入れされたら厳格な減資手続きを行うことで資本金の額は自由に減少させることができるのとになっています。
厳格な減資手続きとは次の手続きです。
株主総会の決議要件は次の通りです。
欠損填補(利益剰余金のマイナスに充当)のみを目的とした減資の場合は、普通決議でよいこととされています。利益剰余金のマイナスを超過して資本金を取り崩すときには、その超過額は資本準備金またはその他資本剰余金になりますが、この場合は特別決議による必要があります。
債権者保護手続きとしては、
が必要です。
債権者保護手続きは、減資によって債権者の担保財産が減少し、債権者が一方的に不利な立場になることを考慮して、公告と催告を会社に義務付けるとともに異議申述の機会を与えるものです。異議申述期間は1ヶ月を下回ることができず、その間に債権者が異議を申し立てなければ、減資の株主総会決議が債権者にも承認されたものとみなされることになります。逆に、債権者が異議を申し立てた場合、会社はその債権者に債権の弁済(担保提供などの方法もある)をしなければなりません。
要するに、減資手続きを完了させるためには、最低でも1ヶ月の法定手続きが必要ということになります。
決算日現在で資本金の額が1億円以下になっていなければ、外形標準課税が適用されることになりますから、決算日直前になってバタバタしても上記のような節税はできませんので注意が必要です。
株主への根回しも大切
会社法では減資の自由度が非常に高くなりました。減資することで節税が行えるというメリットが得られる場合もあるのですが、一般的にはやはりマイナスイメージが強いものでもあります。
特に株主の印象に注意する必要があります。
たとえば、第三者割当増資によって資本金1億円以上になったとします。その直後に減資を行いたいと取締役が言い出したら、第三者割当に応じた新しい株主はどう考えるでしょうか。
自身が投資した資金がいきなり毀損された!?と捉える可能性があります。
取締役からすれば、投資してもらった資金を税金で奪われないように、有効活用するために減資するのであっても、株主が必ずしも理解してもらえるとは限りません。特に、株主となった会社で職位が高い人(役員や管理職)からすれば、ネガティブに捉えてしまう可能性があります。
減資は株主総会の決議が不可欠なので、事前の株主調整をきちんと行っておかなければ、承認を得られなかったり、せっかく事業性を評価してくれた株主との関係が悪化してしまう可能性もあり得ます。ベンチャービジネスに精通しているベンチャーキャピタルでも同意してもらえないことがありますので注意が必要です。
このような場合には、増資タイミングを年度末間際に行うのを避け、年度始めに行い時間を掛けて慎重に協議するぐらいの姿勢が必要かもしれません。
外形標準課税は必ずしも悪なわけではありません
外形標準課税を一方的に悪者であるかのように理解された方もおられるかもしれません。外形標準課税はさらに、資本割・付加価値割・所得割という計算方法に細分化されています。事業の立ち上げ段階にあるベンチャービジネスにとって、資本割と付加価値割は赤字であっても課税されるため大きな負担になる可能性があります。しかし、何とか事業の立ち上げが完了し潤沢な利益が計上されるようになると外形標準課税所得割の税率が軽減されているので、逆に外形標準課税適用法人になっていた方が有利なこともあり得ます。
このようなステージに上がれたときは、資本金を1億円超に設定することで節税を行うことができます。
第三者割当増資を行うのか、株主割当増資を行うのか、あるいは、資本準備金やその他の資本剰余金を資本金に振り返るのかを検討してみるべきでしょう。
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