役員報酬と節税
2010年2月24日 | 税金の基礎知識
中小企業において役員報酬の決定は重要テーマです。
節税の基本中の基本でもあります。今回は、オーナー起業での賢い役員報酬の決め方について考えてみます。
オーナーは役員報酬の決定権を握っている
役員報酬は、会社を経営する取締役がその職務の対価として会社から受け取るものです。従って、その職務(経営)の巧拙に応じて報酬額が比例すると考えるのが建前です。
しかし、オーナー型の中小企業では、所有と経営が一致しており、報酬額を決める人は、株主であり、かつ、取締役であるオーナーということになります。特段の事情がない限り、オーナーの役員報酬はオーナーが決めることができますし、オーナーの親族ではない取締役の報酬もオーナーが事実上決定できる立場にあります。
オーナーは何を基準に報酬を決めているか
オーナー取締役は何を目安として自らの役員報酬を決定しているのでしょうか?
多くの場合、会社の利益が必要以上に出ないように自らの役員報酬を決定していると思われます。
オーナー取締役の感覚からすれば、役員報酬支給前の年間の会社利益を予測して、その利益額とほぼ同額を自らの役員報酬にしよう!といったものではないでしょうか。
要するに、法人税は払いたくない!という思考による決定方法です。
もちろん、上記のように決定しようと思っても、実際には前年の実績役員報酬とのバランスや会社の資金繰りの状況も考慮されるでしょうけど、基本的思考はこのような感じだと思います。
会社の利益をみんな役員報酬にするのがホントに得なのか
役員報酬控除前の会社利益が次のようだったとします。
役員報酬控除前利益 | 役員報酬 | |
---|---|---|
ケース1 | 500万円 | 500万円 |
ケース2 | 3000万円 | 3000万円 |
当たり前ですが役員報酬には所得税と住民税が課税されます。会社の利益をゼロにして法人税をゼロにしても所得税と住民税がどのようになるかを考えておかなければなりません。
上記の例でそれぞれの税金を計算してみると次のようになります。
所得税 | 住民税 | 合計 | 負担税率 | |
---|---|---|---|---|
ケース1 | 14.4万円 | 19.1万円 | 33.5万円 | 6.72% |
ケース2 | 722.3万円 | 245.4万円 | 967.8万円 | 32.26% |
所得税及び住民税は、扶養家族なし、社会保険は協会健保・厚生年金保険のみ、生命保険料控除等なしとします。
法人税の実効税率は約40.9%(軽減税率を考慮しない場合)になりますので、税率差を考えると利益を全部役員報酬にしてしまった方が税金的には有利ということになってしまうのです。
ご承知の通り所得税は累進課税制度となっています。表面税率では年間所得1800万円超になると最高税率に到達することになります。1800万円超の役員報酬をとると税率が逆転すると誤解されていることが多いようですが、「所得」であっていわゆる「報酬額面」ではありません。
給与所得 = 報酬額面 - 給与所得控除
となりますし、健康保険や厚生年金保険の保険料を所得計算上控除しますので、実際に最高税率に達するのはもっと高額の報酬になります。
所得税の最高税率の話はさておき、年3000万円の役員報酬をとったとしても、法人税よりも負担税率が低いというのが現実なのです。
代表者が役員報酬を年3000万円得ている中小企業はゴロゴロしているわけではありませんが、ほとんどの中小企業では役員報酬で利益をつぶしてしまっても、税金のことだけを考えるのであれば、ほぼ必ず節税になるということになります。
実効税率の分岐点はいくらなのか
法人税と事業税には軽減税率があります。
渋谷区に本店があり、事業所が一箇所だけ(外形標準課税の適用なし)だとします。この場合の実効税率は次のようになります。
法人所得額 | 実効税率 |
---|---|
400万円以下 | 24.8% |
400万円超800万円以下 | 26.4% |
800万円超 | 40.9% |
法人所得が600万円の場合には、400万円までは24.8%で計算し、残り200万円は26.4%で計算することになります。
これを実際に役員報酬控除前の会社の利益に適用して役員報酬として所得税(住民税含む)を払う場合と法人税(住民税含む)を払う場合を比較してみると以下のような計算結果になります。
なんと、5,080万円が税率の分岐点になってしまうのです(本店の所在地によって分岐点は異なります)。
扶養家族がどうなっているか、小規模共済掛金を支払っているとか、他の所得があるのかないのかなどでこの金額は変動しますが、常識的に考えてとてつもなく大きな金額であることに間違いはないでしょう。
実際にはこんな単純ではない
これだけの金額を役員報酬で支払える会社は限られています。税率差による節税だけを考えるのであれば、役員報酬で会社の利益を全部つぶしてしまえばお得!?ということになってしまう訳です。
法人税法はそんな穴のある法律ではありません。
同業・同規模の会社と比較して、不相当に高額な役員報酬は、法人税の計算上、損金算入を認めない!という定めがなされています。
滅多にこの規定が適用されることはないと思いますが、売上が1億円ぐらいの会社で6000万円の役員報酬を一人でとっていたら、損金不算入!というご指摘を受ける可能性が十分ありますのでご注意ください。
また、法人税法では、役員報酬は年度の途中で変更した場合、報酬額のうち損金処理できない部分が発生することになっています。予想外に利益が出たので、役員報酬を途中から増額すれば節税になる!なんてことを考えても無駄です。所得税と法人税のダブルパンチになってしまいます。
上記の計算は法人税を払わないという前提で行った計算に過ぎません。法人税を払わないということは、会社に利益を計上しないということと同じです。当然内部留保が全然できないということでもあります。
このような会社に対する金融機関の評価は冷たくなるものです。大規模な設備投資をしたいとか、取引先が倒産して多額の売掛金がショートしたといった場合に金融機関が気持ちよく融資をしてくれるのか?ということも経営者は考えないといけないですね。
税金のことだけを考えて経営することは通常できません。
税金だけではなく、会社の成長曲線を慎重に検討のうえ、役員報酬を決定するようにしましょう。
Tweet