給与所得と源泉徴収制度
起業するまでは、年末調整で所得税の申告納税が完了していた方も多いと思います。経営する立場になると従業員に代わって会社が税務処理を行わなければなりません。起業を志す経営者は源泉徴収制度を理解していなければなりませんね。
源泉徴収制度の仕組み
月々の給与の支払に対して所得税が源泉徴収されていることはご存知だと思います。年末徴収の有無にかかわらず、支払者(会社)は源泉徴収を行わなければならないことになっています。
給与所得に対する源泉徴収の流れは次のようになっています。
給与の支払者は給与の支払時に、源泉徴収表に基づき源泉徴収を行います。支払者は源泉徴収した税額を原則として翌月10日までに納税者(給与所得者)に代わって国に納付しなければなりません。
給与の支払者は、年末調整を行い(年末調整しない受給者もあり得ます)、その給与所得者の所得税の年税額と源泉徴収累計額を計算・集計して過不足額をその者の給与支払時に加減算して年税額の年税額の精算を行います。
給与支払者は、年末調整の結果によって加減算精算した預り所得税を年末調整の過不足額として国に納付します。これによって、各給与所得者の所得税は国に納税されることになります。
このように給与所得者の所得税は、給与支払者が源泉徴収と年末調整を行うことによって、国との関係で完結することになります。ただし、他に給与所得以外の所得がある場合や医療費控除のように年末調整で処理されない調整事項がある場合には、各人が確定申告を行うことで所得税の申告納税関係が完結することになります。
要するに大半の給与所得者の所得税に関する申告納税処理を、給与支払者が各給与所得者に代わって行うことで、国の事務処理を簡素化する仕組みということができます。
給与支払者は源泉徴収を拒否できない
源泉徴収制度は、給与支払者が任意で行うものではありません。実質的には、給与所得者と国が行う事務処理を給与支払者が代行しているようなものなのですが、給与支払者はこれを拒むことができません。これを給与支払者の源泉徴収義務といい、法律で定められた給与支払者の義務なのです。
源泉徴収を行わなかった場合、仮に給与所得者が確定申告を自ら行って国に納税していたとしても、本来源泉徴収すべきであった税額を給与支払者は納税しなければならないことになります。結果的に、国に納税されているのだからいいじゃないか!!という理屈は認められません。法律で定められた義務だからなのです。
万が一、源泉徴収漏れが生じた場合には、支払者は本来の納税者(給与所得者)に代わって第一次的に納税を行い、その立て替えた税額を本来の納税者から徴収しなければならないことになるのです。延滞税も給与支払者が負担しなければならないことになります。
扶養控除等申告書の有無で源泉額が異なる
給与に関する源泉徴収税額は、原則として、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に基づいて計算することになっています。賞与に関しては「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に基づいて計算することになります。
これらの源泉税テーブルをよく見ると、「甲」と「乙」という欄が記載されています。
区分 | 対象者 | 備考 |
---|---|---|
甲 | 扶養控除等申告書を会社に提出した人 | 乙欄に比べて源泉税率が低い。月額88,000円未満の給与の源泉税はゼロになる。 |
乙 | 扶養控除等申告書を提出していない人及び「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出した人 | 小額の給与についても源泉徴収される。税率が甲欄に比べて高い。 |
このように甲欄適用者と乙欄適用者では税額が異なっています。その分岐点は「扶養控除等申告書」が会社に提出されているか否かなのです。
年末調整時にまとめて扶養控除等申告書を回収している会社がありますが、年末には退職している人についても扶養控除等申告書がなければ甲欄を適用することができません。人の出入りが激しい会社では、入社時に確実に同申告書を入手しておきましょう。
源泉徴収税額の納税
給与支払者は原則として源泉徴収した税額を徴収月の翌月10日までに国に納税しなければなりません。
例外的に、源泉所得税の納期限の特例を申請し受理されている給与支払者は毎月の納税に代えて半年毎にまとめて納税することが認められています。
源泉対象期間 | 納期限 |
---|---|
1月1日から6月30日まで | 7月10日 |
7月1日 | 翌年1月20日まで |
この特例を適用できる給与支払者は、給与の支払を受ける人の数が常時10人以下である場合に限られます。特例を受けている場合でも、会社の成長とともに給与支払対象者が増加してくると毎月納付に変更しなければならなくなりますが、この10人という基準は実務上弾力的に取り扱われています。
何よりも、半年分の源泉税をまとめて納付するのは意外と負担になるので注意が必要です。当事務所では、納期特例の申請をしておいて、納付自体は毎月行うことを推奨しています。この方法だと、万が一納付が10日(7月と1月を除く)よりも遅れても付帯税が課されませんので安心です。
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