コラム

定期同額給与と役員給与の損金算入の可否

2010年5月5日 | 税金の基礎知識

役員に対する報酬については複雑な規制がされています。節税以前の問題として、損金算入できる場合と損金不算入になってしまう場合を理解しておきましょう。

役員報酬は損金算入できる場合が定められている

役員報酬の損金算入に関しては、平成18年度に大改正が行われました。この結果、役員給与の損金算入部分と損金不算入部分の区分は次のように定義されたことになります。

このように役員に対して支給される給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与の各区分の要件を満たすもののみが損金算入が認められ、これら以外のものはすべて損金不算入といった定め方になっています。
以前の役員報酬に対する規制は「定期」か「臨時」かで区分されていたのですが、「同額」であることがさらに要求されることになっています。改正前であれば、期中減額改定は比較的弾力的に行えましたが、改正後はかなり厳しくなったといえます。

定期同額給与とは

定期同額給与とは、支給時期が1ヶ月以下の一定期間ごとで、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものを言います。より具体的には次の通りです。

支給額が同額である定期給与 その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
改定がある場合の定期給与
  1. 通常改定
  2. 定時株主総会による増額・減額改定

  3. 臨時改定事由による改定(外部要因)
  4. 役員の職制上の地位の変更などにより期中に行う増額・減額改定

  5. 業績悪化改定事由による減額改定(内部要因)
  6. 経営状態が著しく悪化した場合に行う減額改定。単なる業績悪化や資金繰り不安は該当しないとされている

毎月概ね一定の経済的利益 継続的に供与される経済的利益(低廉利息、低廉賃料など)のうち、きょうよされる利益が概ね毎月一定のもの

損金算入可否のケーススタディ(増額改定)

増額改定する場合で実務上あり得るパターンの損金算入可否について整理してみました。気持ち悪くなりますがご容赦ください(汗)

  1. 通常改定(増額)
  2. イレギュラーが全くない増額パターンです。全額が損金算入されます。

  3. 通常改定(増額)だが一部未実行
  4. 法定の手続きを経て増額決議を行ったが、実際には総会承認額の満額を支給しなかった場合です。全額の損金算入が認められると考えられます。実務的には議事録の作成ミスと考えられます。

  5. 期中増額改定(臨時改定事由なし)
  6. 定時株主総会の翌月(6月)から増額する決議をしておきながら実際には6月以降に増額した、あるいは、決算日から3ヶ月を超過した月以降に臨時株主総会等の決議により増額改定したパターンです。増加額がすべて損金不算入になってしまいます。

  7. 期中増額改定(臨時改定事由あり)
  8. 定時株主総会で増額改定決議を行わなかったが、その後代表者の死亡により代表者変更が生じてしまったため、期中に新代表者の役員報酬を増額したといった臨時改定事由が存在するパターンです。この場合は期中増額改定分も損金算入が認められます。

  9. 遡及増額改定
  10. 定時株主総会決議で当年度の経過月分の役員報酬を遡及増額改定し、増額改定分を含めて一括支給したパターンです。このような遡及増額改定の損金算入は、平成18年改正までは認められていましたが、改正後は損金算入が認められないことになっています。

  11. 特定月のみ増額(事前確定届出なし)
  12. 特定月のみ役員報酬をうわのせ支給した場合や役員に対する債務免除等が経済的利益として認定された場合は、その増加分は損金不算入となります。

  13. 複数回の増額改定
  14. 決算日から3ヶ月経過後に臨時株主総会等により増額改定を行ったとしてもその増額改定分は損金不算入となります。

  15. 歩合給等により期中変動
  16. 役員に対して歩合給制度を導入している場合、平成18年改正までは従業員と同一の基準によるものであれば損金算入が認められましたが、改正後は年度を通じて最も低い報酬額までしか損金算入が認められず、超過分がすべて損金不算入となります。

  17. 税務調査で経済的利益の認定を受けた
  18. 税務調査により役員に対する経済的利益が認定された場合の処理です。経済的利益のうち年度を通じて概ね一定の金額になっている部分については損金算入が認められますが、それ以外の部分は損金不算入となります。

損金算入可否のケーススタディ(減額改定)

引き続き減額改定する場合で実務上あり得るパターンの損金算入可否について整理してみました。もっと気持ち悪くなりますのでご注意ください(汗汗)

  1. 通常改定(減額)
  2. 定時株主総会による一般的な減額改定のパターンです。この場合には全額の損金算入が認められます。

  3. 臨時改定事由or業績悪化改定事由による期中減額改定
  4. 臨時改定事由や業績悪化改定事由が発生した場合、定時株主総会による減額改定決議がなくても減額前の報酬額の損金算入が認められます。ただし、資金繰りの不安や赤字決算を回避したいといった経営者の心理的不安は業績悪化改定事由と認められないこととされています。

  5. 業績不安や資金繰り不安のため期中減額改定(業績悪化改定事由に該当しない)
  6. 定時株主総会で減額改定を行っていない場合で業績悪化改定事由にまで至らない資金繰りの不安や赤字決算を回避目的での期中減額改定のときは、その年度の減額前の超過額の全額が損金不算入となります。

  7. 業績不安や資金繰り不安のため複数回の期中減額改定(業績悪化改定事由に該当しない)
  8. 定時株主総会で通常減額改定を行った後に、さらに業績悪化改定事由が発生していないにもかかわらず減額改定を行った場合は、通常減額改定分も含め減額後の超過額すべてが損金不算入となります。

  9. 増額改定後の一部減額改定(業績悪化改定事由に該当しない)
  10. 通常増額改定後に資金繰り不安等により増額分の一部を減額改定した場合、減額後の超過分が損金不算入となります。

  11. ゼロ支給に期中減額改定(臨時改定事由なし、業績悪化改定事由なし)
  12. 期中に役員報酬を1ヶ月でもゼロとする減額改定を行った場合には、それが臨時改定事由または業績悪化改定事由に該当しない限り、それまでに支給されていた報酬の全額が損金不算入とされます。かなり厳しいことになりますので、要注意です。

  13. 一時的な減額(臨時改定事由なし、業績悪化改定事由なし)
  14. 期中に一度減額改定を行い、再度増額改定を行ったような一時的減額の場合、臨時改定事由に該当しない限り減額時の報酬額を超過する部分は全額損金不算入となります。なお、法令違反等の責任を明確化する等の理由で一時的に減額する場合には、臨時改定事由に該当するため、支給額の全額が損金算入できます。

  15. 業績悪化(業績悪化改定事由に該当)により報酬を減額したが、のちにもとに戻す
  16. 業績悪化事由の発生により減額改定をしたが、その後予想外に業績回復ができたため当初の報酬額に戻すことが考えられます。しかし、この場合には増額改定分は損金不算入となってしまいます。

  17. 税務調査で過大役員報酬の認定を受けたので減額
  18. 税務調査で支給してきた役員報酬が過大役員報酬と認定されたため、適正額にまで減額することが考えられます。この場合は定期同額給与に該当しなくなるので減額前の超過額が損金不算入となります。

  19. 税務調査で過大役員報酬の認定を受けたが減額しない
  20. 税務調査で支給してきた役員報酬が過大役員報酬と認定されたが、適正額にまで減額せずそのまま支給し続けた場合、適正額超過額の全額が損金不算入となります。定期同額給与規制による損金不算入ではなく、過大役員報酬の損金不算入のケースです。

  21. 定時株主総会の減額決議を無視して支給を続けた
  22. 定時株主総会で通常減額改定決議を行ったにもかかわらず、その決議に従わずに減額前の金額を支給し続けた場合、定期同額給与の要件は満たしていますが、減額決議額の超過額は損金不算入となる可能性があります。これは過大役員報酬の形式基準に関する問題で、総会等の決議方法や議事録の作成方法によって判断が分かれると思われます。

業績予測による役員報酬設定と節税

定期同額給与制度は上記のように異常に複雑な取り扱いになっています。
年間の業績予測を行って法人税が発生しないように役員報酬を設定する節税手法がありますが、このように複雑な定期同額給与制度に対処できるほど正確な業績予測ができる会社は果たして存在するのでしょうか。
特に、起業したての会社は業績予測が困難ですし、社歴がある会社でも昨今の経済環境で過去の実績通りに業績が推移する保証はないと思います。
定期同額給与制度は会社法の施行とともに、役員報酬を利用した節税を防止する趣旨で課税庁が導入したと思われますが、その建て付けは過剰ともいえるほど厳格に設計され、しかも、法令は曖昧な上これを補完する通達も整備されていません。
不景気の中、財務基盤が脆弱な中小企業は存続の危機に瀕しているわけで、過剰に厳格な税制は産業の活力を奪っているともいえるでしょう。もう少し弾力的な制度への修正を望むところです。批判や不満は多々あると思いますが、中小企業としては役員報酬を利用した過剰な節税により会社の体力をより失うことのないよう注意したいところです。





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