サイバー税務署が来た(その2)
税金地獄の始まり
またまた数日後、
(国)こんな感じになったのでご確認をお願いします
(オ)こんなに利益があるんですか?
(国)ご説明いただいた内容を集計したらこのようになりました
(オ)僕の生活感に合わないんですけど・・・
(国)ひとつずつご説明しますね
(オ)うぅぅぅぅ・・・・
(オ)これって、税金はいくらぐらいになるのですか?(諦めモード半分)
(国)これが本来納めるべき税金の額です
(オ)えぇぇぇぇぇぇ!(動揺)
(オ)こんなに払うお金はありません(居直りモード)
(国)分割で払うこともできますので、よろしくお願いします
(オ)わからました(涙)
無申告状態が把握されると推計課税によりこのようなことになるものです。
このオーナーは一般的に言えば『脱税』ということになるのだが、事業を行うということに関しては実にまじめな姿勢を持っていた。
どうしてこんなに税金を払わないといけないのかは釈然としないが、すべては自分の処理が不十分だったことによる訳なので何とか納めるしかないと腹を決めて確定申告書の提出と納税の誓約を提出したのである。
この日から小店主の納税との戦いが始まったのである。
泣く泣く納税の了解をした小店主は、提示された税額に呆然としていた。
その額、約500万円ナリ。
ようやく軌道に乗りかけていた通信販売事業であるが、税金のことを考慮しない状態での収支計算に過ぎない。実際上は収支は合っていないことになる。
しかも、これから払わなければならない税金は過去の年度の税金。
当然、今年度以降の税金も追加で発生してくる。
おまけに、従業員アルバイトの給与に対する源泉税も毎月発生する。
まさに税金地獄だ。
納税対策と節税対策の始まり
銀行から借入して税金を納めることも考えた。
しかし、滞納税金がある状態では、まともな金融機関はお金を貸してくれない。
融資を受けるときには『納税証明書』の提出が求められ、そこに滞納税金がないことが明示されていなければならないからだ。
結局のところ、売上を増やしてキャッシュを稼ぐしかない。
顧問税理士になった僕と数度にわたり打ち合わせを行い、今後の方針を決めた。
今後の方針はこうだ。
1.法人成りする
2.在庫を圧縮する
3.帳簿をちゃんと作成する
4.気合いを入れて頑張る
法人成りというのは、会社を設立して個人事業をそれ以後会社として継続することだ。
オーナーの事業規模は消費税の免税点を既に超えていた。
消費税の負担がかなり大きくのしかかってくることが明らかだったので、法人成りという方法を選択したのだ。
実は資本金が1000万円未満の会社として法人成りをすると消費税を2年間免税にすることができるのだ。
この仕組みを使って、将来の消費税の負担増加をとりあえず防ぐことができた。
次に検討対象になったのは在庫の圧縮。
このお店では、かなり大量の在庫が保有していた。お金がない原因はここにあった。
オーナーとしては商品が安く手に入るときには、自分の給与の支払を止めてでも在庫を積極的に購入していた。在庫に資金が拘束され、いつもお金がない状態だったのだ。『仕入代金を払ったら費用になる』的な感覚がどこかにあった。
売らないと費用にならないですよ!
売ったらまた利益が出てしまうじゃないですか!?
在庫は資産であって費用じゃないから!
でもお金は払ったんだから、費用にしてもらいたい!
・・・・
こんな押し問答を何度も繰り返したような気がする。
当然今では彼はそんなことをいうことはない。きちんと理解している。
手持ち在庫を値崩れを起こさないように徐々に整理する毎日が続いた。
半年後、以前から抱えていた在庫は半分まで圧縮され、月々の売上と比較してもほぼ適正な水準にまで落とすことができた。
同時並行で、会計帳簿を作成するための仕組みを構築し、遅れ遅れながらも月次決算をまとめていった。
儲けの状況を把握することで、突然多額の税金が発生して四苦八苦しないようにするためだ。
初めのうちは商売とは関係のない領収書が紛れ込んでくることもあったが、半年ぐらいした頃にはかなり経営状態がわかるようになってきた。
推計課税を受けたときとは見違える進歩だ。
トンネルを抜けた日
過去の税金を納める。
将来の税金を圧縮しつつ納税資金を蓄える。
一年がかりの資金コントロールが続いた。
オーナーはひたすら頑張った。
税金の使い道に不満はある。
こんなに苦労して税金を納めているのに何であんなバカみたいな使い方をしているんだ!よくこんなことをぼやいていたが、1年がかりで何とか過去の税金を納めきることができたのだ。
納税との戦いの中、思わぬ副産物が生まれた。
前年対比65%売上増加を一気に成し遂げてしまったのである。
売上を維持するには当然にそれに見合った組織体制が必要なわけだが、この体制も同時に確立してしまった。
経理体制もほぼできたので、利益がどれぐらいになりそうなのか、事業投資をする余力はどれぐらいあるのかといったこともかなりわかるようになった。
税務調査を機会に、この会社は大きな前進をすることができた。
今彼は、僕が勝手に出した年商2億円という宿題に向けて毎日汗をかいている。
本稿は「うちの事務所での出来事」のバックナンバーを加筆修正したものです。
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