第三者保証に対する規制と影響
2011年1月13日 | 中小企業と経営 / 資金調達と決算書
中小企業と第三者保証
中小企業が金融機関から融資を受ける際に避けて通れないのが、連帯保証です。
連帯保証を入れるのは当たり前!
代表者が連帯保証できないような融資申込みに金融機関がOKできないのは心情的に理解できなくはありません。
問題なのは「第三者による連帯保証」が求められることがあることです。
代表者の配偶者や親・子供、代表権のない取締役、代表者の知人・友人などの連帯保証を求めてくることがあります。特に、その事業とは全く関係のない知人友人が連帯保証し、経営が破綻した場合には悲惨なことになりかねません。代表者の親族もその経営に無関係なことは多数あります。
金融庁が銀行による第三者保証を監督項目に追加
金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」に次のような項目が追加されました。
『不動産担保や個人保証は、資金供給の円滑化等の効果が認められるものの、それへの過度の依存は、この事業価値を見極めるという地域密着型金融が本来目指す融資の姿から逸脱し、金融仲介機能の低下につながることに留意することが必要であり、とりわけ、経営者本人以外の個人による保証(第三者保証)については、本来、経営に責を負うべきでない第三者に経営失敗の責任を負わせる点で弊害が多いと考えられる。従って不動産担保、個人保証に過度に依存することなく、事業価値を見極める融資手法を徹底することが重要である。(金融庁HP(中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針)より)』
- 経営責任を負うべきではない第三者が不動産担保提供や連帯保証をしている現実がある
- 担保提供や連帯保証した第三者が悲惨なことになっている現実がある
- 代表者等経営責任を負うべき者が連帯保証することは取り敢えず問題にはしていない
- 金融機関が不動産担保や個人保証に過度に依存していることがある
- 金融機関は融資にあたり「事業価値(事業計画や経営力)を見極め」て融資判断をすべきである
- 今後、経営責任のない第三者が事業融資に巻き込まれないように指導監督する
という金融庁の考え方が明確にされたわけです。
金融機関の融資姿勢
金融機関の中小企業への融資姿勢は、確実に融資金を回収できることです。
融資金が貸し倒れれば、利息収入を貸倒損失が大幅に上回り大赤字になってしまう可能性があります。金融機関の立場からすれば、融資金の保全が何よりも重要なテーマになります。
金融機関が回収の確実性を判断する指針は次のような事項ではないでしょうか。
- 信用保証協会の保証枠の範囲の融資にとどめる
- (不動産など)物的担保の担保価値以下の融資にとどめる
- 代表者(連帯保証人)の処分可能な個人財産の範囲内の融資にとどめる
- 人的担保(連帯保証)の範囲を広げる
- 融資先会社の内部留保等を分析し弁済能力を評価する
- 事業の成長性やキャッシュフローを評価し負担可能なリスクの範囲で融資を行う
- 代表者の性格をみる
順番に確実性が低下してくると思います。同時に融資審査の事務的な手間も増えていきますし、融資実行後の貸付債権の管理コストも増えるでしょう。数年ごとに人事異動を繰り返す金融機関としては、融資後も融資先の事業や状況をモニタリングし続けなければならない融資方法は金融機関自体の事業効率を下げることになりかねません。
そのため、融資審査段階でかなりの部分の保全を完了してしまう手法に重点を置く傾向が強くなったのだと思います。
この結果、融資先に対する分析能力が十分に鍛えられないまま、新人銀行員たちは管理職に昇格していってしまったのではないでしょうか。
金融庁の監督が強化されるとどうなる?
銀行としては、第三者保証等に対する監督強化が行われた場合、
よし、事業計画や事業実績を十分に分析して積極的に融資を行うぞ!
なんてことになるのでしょうか?
これまで融資を受ける企業側としても、新規融資の申し込みタイミングを除き、事業計画の達成度や決算内容(特にB/S)を厳しくチェックされることなく経営してきてしまったのではないでしょうか。十分に練りこんだ事業計画を策定したことのない中小企業の方が圧倒的多数なのではないでしょうか。
そんな中小企業の社長に事業計画の提出を求め、詳細なヒアリングを行ったら、ボロがどんどん出てきてしまうことになる予感がします。
税理士などの専門家に事業計画の作成を依頼し融資審査に望むという社長も出てくるでしょう。資料は立派なので融資を受けられるかもしれません。しかし、重要なのは計画書の体裁ではなく、事業計画の管理をしっかり行って計画を実行、達成することです。ここが中小企業の弱いところです。全くの絵に描いた餅だったことを自ら証明してしまったら、次回の融資や借り換え時に大きな支障になるはずです。
汚れたB/Sもより厳しくチェックされるようになるでしょう。
保全原資になる資産と負債の状況を確認しなければならないからです。さらに小手先の粉飾をしたらB/Sに必ず影響が出てくるからです。売掛金や在庫が異常に膨らんでいたりしたら内訳の精査をされるかもしれません。
長期的に考えれば、金融庁の考え方は正しいことは間違いありません。
しかし、短期的には銀行が監督指針に従った融資を行えば行うほど、中小企業融資が縮小してしまうかもしれません。
その結果、信用保証協会の保証枠を政治的に拡大して、半強制的に中小企業への資金注入を行うなんてことにも発展しかねないのではないでしょうか。貸し倒れた場合には税金の投入ということになってしまうわけです。
自殺者がものすごい勢いで増えているから、経営に関係のない第三者が連帯保証制度で連鎖破綻するのは同義的に問題があるから、これらを政治的に防ぐ必要があるというだけでは解決しない根が深い問題があると思います。
中小企業の社長のみなさんへ。
第三者保証が原則できないように規制されるということは、みなさんの経営責任がより厳しく問われる時代に突入するということと同じだと思っていた方がよいと思います。
少しでも早く、準備を始める必要があると思いました。
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