役員貸付金と税務問題
2011年10月25日 | 中小企業と経営 / 税金の基礎知識
会社から役員への貸付金を計上していませんか?
中小企業、特に同族会社では代表者への金銭の貸付を行ってしまうことがしばしばあります。
役員の資金需要に対応して適切な法定手続き(株主総会や取締役会の決議、金銭消費貸借契約書の締結)を経て行われた貸付取引もあれば、仮払金や立替金を通じた会社資金の引き出し金が役員貸付金になってしまうこともあります。
これら役員に対する貸付金には税務問題が付きまといますので、まとめておきたいと思います。
役員貸付金の発生原因
中小企業でありがちな役員貸付金の発生原因は次のようなものだと思います。
- 適切な手続きに基づく金銭消費貸借
- 上記以外の役員貸付金
税務の観点だけで考えれば、1の貸付金は適切な利息を付していれば問題になりにくいものです。ただし、金融機関は迂回融資されたものとして問題視することがあり得ます。
「上記以外の役員貸付金」はさらに以下のようなものに分類されるでしょう。
これらのものはほとんどの場合、法定の手続きが整備されていないのではないでしょうか。
法定手続きに問題があると税務問題に発展する可能性が高くなってくるので注意が必要です。
役員貸付には利息を計上しなければならない
役員貸付金にまつわる税務問題の第一は、利息計上が必要だということです。
役員からの借入金には利息計上が通常要求されないのに対して、会社から役員への貸付には利息計上が必須とされています。
これは、税法が想定する「人」の位置づけが異なることに起因しています。
すなわち、株式会社は営利を目的とした「人」なので当然に利益にならない行為はするはずがない。これに対して、個人は営利追及を第一義的な目的として存在しているわけではないので、経済的に合理的な行動をしないことも十分ありえる、と考えられているからです。
そのため、会社が役員を含む第三者に貸付を行うときは、必ず利子を付して処理しなければならないこととされているのです。営利を目的としないNPOや一般社団法人・一般財団法人の場合にはどうなんでしょうかね?
金利はどれぐらい必要なのか
利息をつけなければならないとして、いったい何%に設定すればよいのか!?
できるだけ低い金利にしたいというのが本音だと思います。
所得税の基本通達に以下のものがあり、法人税法の処理でもこの通達に準拠した処理をしていれば問題になりません。
所得税基本通達 36-49(利息相当額の評価)
- 使用者が役員又は使用人に貸し付けた金銭の利息相当額については、当該金銭が使用者において他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には、その借入金の利率により、
- その他の場合には、貸付けを行った日の属する年の前年の11月30日を経過する時における(日本銀行法第15条第1項第1号の規定により定められる商業手形の基準割引率(いわゆる「公定歩合」))に年4%の利率を加算した利率(その利率に0.1%未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)により(いわゆる「認定利息」)
評価する。
基準割引率は、以下の日本銀行HPで入手できます。
基準割引率および基準貸付利率(従来「公定歩合」として掲載されていたもの)の推移
要するに、
- 利息を定めなければ、必ず4%以上の認定利息の計上を要求される
- 貸付と紐付けの借入金があるのであれば、その借入金利を適用することが可能(「明らかな紐付け」は迂回融資になってしまいます)
- もっとも低い調達金利を適用するなら、紐付けであることを論証する必要がある
- 明らかな紐付けでない場合でも調達金利以上であれば通常問題にならない
- 明らかな紐付けでなければ、平均調達金利を適用することも考えられる
利息を定めない場合を除き、会社と役員とで取り決めた金利は金銭消費貸借契約書に明記しておくべきです。契約書に金利が明記されていないのに、決算残高に調達金利を乗じて受取利息を計上したりすると否認され認定利息への修正を求められることもあり得ますので注意が必要です。利息を定めない場合は当然認定利息の適用となります。
未収利息は実質的な貸付金だ!
役員貸付金に利息を認識するとしてその利息をきちんと支払っていないケースを時々見かけます。役員に対する未収利息が累積している状態です。
実質的には役員貸付金が増加しているようなものです。
長期滞留してしまった未収利息は実質的な貸付金なのだから、未収利息に対しても利息を計上しなければならない!と税務調査で指摘されることがあるかもしれません。
本当に利息を計上しなければならないのでしょうか?
金銭消費貸借契約書で「複利計算により金利を付す」と言った記載でもしていない限り、未収利息に金利を付すことは当然のことではありません。もし、このような指摘を受けた場合には金銭消費貸借契約書が非常に重要な役割を担うことになります。きちんと契約書に「単利」であることを明記しておくべきです。その上で調査官と十分議論をしてください。
返済しないのであれば役員賞与と同じだ!
未収利息はおろか役員貸付金元本の返済が長期滞留してしまうこともあります。
こんなとき、返済実績もないのだから実質的な役員賞与ではないか!役員賞与処理すべきだ!と税務署に指摘されることもあり得ます。
返済が滞っているから直ちに役員賞与と言うのは暴論だと思います。
金銭消費貸借契約書に「月々○○円を弁済する」と記載されているのに弁済が滞っているのは問題ですし、弁済が滞っているのに会社が何も対処していないのも問題です。だからと言って直ちに役員賞与(正確には、定期同額給与・事前確定届出給与・退職給与以外の役員給与)というのは言いすぎですね。
弁済が滞っているのであれば、その理由や当初契約内容を変更する覚書等と作成し、具体的にどのように弁済するのかを明確にする努力をしておくべきです。
当初から弁済の見込がなかったなどと説明したら、役員賞与と同じではないかとなりやすいので説明も慎重に行う必要があります。
どうしても役員賞与だ!と言われる場合には、「更正して下さい」と言ってみるのも方法です。
安易に役員賞与処理を受け入れると役員給与として所得税が課税されますし、源泉徴収義務違反が会社に問われることにもなります。法人税の処理としては賞与相当額が損金不算入となってしまいます。安易に受け入れてはいけません。
役員貸付について債権放棄したらどうなる
金融機関から役員貸付を厳しく指摘された。
税務調査のたびに認定利息や役員賞与の議論をされるのが不本意だ。
ならば、債権放棄してしまおうか!?
こういうことは考えてはいけません。
法人税法では、貸倒損失を損金算入できる場合が厳しく規定されています。
相手先が代表者であったり、代表者が経営する他の会社だったりしたら、ほぼ間違えなく役員賞与の議論になってしまうでしょう。
また、仮に債権放棄した場合、放棄を受けた役員に所得税が課税されることになります。
自分が経営する会社であるなら多少の融通は利くかもしれません。しかし、放棄により発生した所得税を納税できなかったとしたら、債権者は国ということになってしまいます。取立てはシビアですよ。
役員貸付金の解消方法については別の機会に整理してみたいと思います。
一般労働者派遣事業の更新で公認会計士監査を受けてはいけない
平成23年10月1日以降の審査が変わる
一般労働者派遣事業を行う場合、新規許可または許可有効期間の更新をしなければなりません。
この場合の取り扱いが、平成23年10月1日以降変わりました。
決算年度末で資産要件を満たしていなかった場合、基準資産額が増加する旨の申立てが認められていました。
取り扱い変更後は、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間・月次決算書を提出すれば、その決算書に基づきあらためて資産要件を審査することになったのです。
事業年度末の決算の結果、基準資産額が2000万円未満になってしまった(資産要件の一部が満たされていない)場合、決算日後に純資産が2000万円以上になるように増資を行えば、許可更新が認められていました。
増資日までの損益状況や増資以外の要因による現預金の変動は考慮外とされていました。
もっというと、純資産の内容にまで踏み込んだ審査は行われていませんでした。
平成23年10月1日以降の審査では、単に増資しただけでは許可されないことになったのです。
公認会計士の監査証明を受けることの意味
公認会計士の監査は、税理士業界でしばしば使われる「(巡回)監査」とは意味が全く異なります。
(巡回)監査というのは、税務上の損金算入要件を満たす資料が整備されているかを確認点検しているに過ぎません。決算書全体の適正性については何ら保証するものではないのです。税務上の損金算入要件の確認にしても、税理士がその責任を負担するものではありません。
これに対して公認会計士の監査は、財務諸表(決算書)全体が会計基準に準拠して適正に作成されていることを証明する行為です。監査証明を行った公認会計士は、会計基準と監査基準に拘束され、決算書の重大な記載誤りに対して損害賠償責任を負担することになります。
すなわち、公認会計士の監査は預金残高が1500万円以上あることを確認しました!では済まないのです。基準資産(純資産)が審査対象になっている訳ですから、監査人としては当然に決算書全体を確認しないわけには行かないのです。
監査基準では、決算日を基準として実査・立会・確認を実施すべき監査手続きとして定められています。基準日以後に監査契約をしても監査証明を発行することができないことになっています。
加えて、架空資産の有無、不良債権の評価減の要否、在庫の評価の当否、簿外債務の有無、期間帰属、引当金の要否などを確認し、これらが適正に処理されていなければ、無限定適正意見を出すことができません。
(巡回)監査とは質的に全く異なるものだということをよく理解しておく必要があります。
顧問税理士が毎月監査を行っているから、公認会計士監査も大丈夫だろうと思ったら大違いということも十分にありえるのです。
たとえば、(未監査の)通常の決算書で2000万円であった純資産が監査によって△2000万円(債務超過)になってしまうことも十分にありえるのです。
しかも、監査報酬が10万円程度で何とかなるのではないか?なんて考えてはいけません。会社の規模にもよりますけど、10万円を軽く超える可能性がありますので注意しなければなりません。
当局は一般派遣事業を行う会社を淘汰しようとしているのかも
一般労働者派遣事業の審査方法で決算日の決算書が資産要件を満たしていない場合の救済方法として公認会計士の監査を定めたのはなぜでしょうか。
現預金額1500万円以上、純資産額2000万円以上という基準はそれほどハードルが高い要件ではありません。このほか純資産が負債総額の1/7以上という要件もあります。自己資本比率に換算すると12.5%ですからこれまたそれほど高いハードルではありません。
一部の大企業でなければ達成不能なハードルを設定している訳ではないのにこれをクリアーできない会社は、一般労働者派遣事業を行う適格性にそもそも問題があるという考えが根底にあるのだと思います。公認会計士監査のハードルを越えられる会社だけ審査の対象にする意図が当局にはあると考えるべきでしょう。
なにがなんでも事業年度決算で要件をクリアーする
救済措置ではあるのですけど、事実上このハードルを中小企業が超えるのはかなり厳しいと思います。
そうであるなら、救済対象にならないで済むような決算を絶対に行うべきです。これができなければ派遣事業は廃業とすることも覚悟しなければならないと思います。
手元現預金残高が決算日にいくらになるかは比較的試算しやすいと思います。
純資産がいくらになるかは月次決算を的確に実施し、決算予測をすることである程度は予想できるはずです。
もし、役員借入金が多額に負債計上されているのであれば、決算日前にDES(デットエクイティースワップ=借入金の現物出資)で賄えないかを検討すべきでしょう(DESに関しては法人税の特別な取り扱いがあるので注意が必要です)。それでも足りないときには金銭出資を検討しなければならないかもしれません。
あるいは、決算に向けてもうダッシュの営業を掛けたり、保険を解約するのも方法です。
とにかく、決算での資産要件を満たさなかったので会計士監査!という発想を捨て、決算で何がなんでも資産要件をクリアーさせるという強い意思が必要です。
税理士との打ち合わせは決算日が過ぎてから、、、というルーティンになっている会社は要注意です。決算は決算日前から始まっているものです。
【ご注意ください】
本記事から監査業務のご依頼をしばしばいただきますが、当事務所は本件に関する監査業務はお引き受けしておりません。
悪しからずご了承ください。
雇用促進計画の提出期限迫る
2011年9月30日 | 税金の基礎知識
平成23年10月末が期限
平成23年8月末に雇用促進税制が法制化されました。
雇用促進税制に関しては、当コラムで本年1月に詳細を報告しましたが、法制化の内容はほぼその通りでした。
雇用促進税制を適用するためには、事業年度開始後2ヶ月以内に「雇用促進計画」をハローワークに提出する必要があります。
法制化が震災等により遅延した関係で、特例が設けられていることに注意が必要です。
平成23年4月1日から同年8月31日までに事業年度を開始した法人については、この雇用促進計画の提出期限を平成23年10月末までとされています。
それ以降に決算日を迎える法人は順次、雇用促進計画の提出期限が迫ってくることになります。
たとえば、
9月決算・・・11月末
10月決算・・・12月末 ということになります。
3月決算から8月決算までの法人は、計画の提出期限が直前に迫っていますので要注意です。
節税のために雇用を計画するのはダメ
雇用促進計画を提出しておくことで、たまたま要件を満たすこともあるでしょう。
基礎的な要件を満たしているのに、雇用促進計画を提出し漏れていたことで雇用促進税制を適用できないのはよろしくないと思います。
しかし、税制上の恩典を得るために雇用を計画するのはお勧めしません。
人件費は非常に大きな固定費であり、一度雇用すると退職してもらうのに非常に苦労するものです。
先行き不透明な時代に、目先のメリットのために、固定費を抱えるのは経営者としてどうかと思います。このことを踏まえて以下をご覧ください。
どのような会社が対象になるのか
雇用促進税制適用要件を概観しておきます。
- 青色申告法人であること
- 適用年度とその前事業年度に、事業主都合による離職者がいないこと
- 適用年度に雇用者(雇用保険一般被保険者)の数を5人以上(中小企業者の場合は2人以上)、かつ、10%以上増加させていること
- 適用年度における給与等の支給額が、比較給与等支給額以上であること
- 風俗営業等を営む事業主ではないこと
わかりますか?
もう少し噛み砕いてみましょう。
法人税が発生しない会社では意味がない
雇用促進税制は法人税額からの税額控除を行う制度です。そもそも法人税の納税が発生しない会社では全く意味がありません。
たとえば、
・ 適用事業年度が赤字決算になる会社
・ 適用事業年度は黒字決算になるが青色繰越欠損金で所得が全額相殺されてしまう会社
では、法人税が発生しないので適用を検討する意味がありません。
事業主都合の離職者がいたらアウト
事業主都合による離職とは、いわゆる「会社都合」として退職・解雇をした場合です。
雇用保険を早期に受給したいとの理由で、従業員から「会社都合」扱いでの離職手続きを会社に求めることがあるようです。このような申し出を適用事業年度及びその前事業年度に会社が応じていた場合は適用を受けられないことになります。
会社としては解雇した意思がないけれど、書類上、事業主都合の離職処理をしたことがないかよく思い出してみる必要があります。
雇用者数の増加は純増を意味する
雇用者の増加としましたが、厳密には純増です。
すなわち、
当期末雇用者数 - 前期末雇用者数 ≧ 5人(中小企業は2人)
ということになります。
人数要件だけであれば、決算月にアルバイトを増員しても満額の適用を受けられることになってしまいます。いいんでしょうか?
雇用保険の一般被保険者の増加でなければならない
雇用保険は労働者を雇い入れた事業所が必ず加入しなければならない保険です。
しかし、適用事業所の登録手続きをしていない会社や適用事業所にはなっているけど全員を対象としていない会社が世の中には存在しています。
このように法令違反をしている会社は、雇用促進税制の適用を受けることはできません。
また、雇用促進計画の提出は、形式的受付(収受印をもらうだけで、内容の審査はしない)ですが、計画終了時に被保険者数の当否について確認が行われることになっています。この際、7月に行われる労働保険の確定申告との不整合が見つからないとは断言できません。
なお、役員は雇用保険の一般被保険者の対象ではありませんから人数から除かれることになります。ただし、使用人兼務役員は使用人分について雇用保険の一般被保険者になりますので人数に含めることになります。従業員を役員昇格させる場合には注意が必要です。
一定額以上の給与増額がなければならない
比較給与等支給額 = 前事業年度の給与等の支給額
+ 前事業年度の給与等の支給額 × 雇用増加割合 × 30%
要するに、
前年度対比給与増加額 = 前事業年度の給与等の支給額 × 雇用増加割合 × 30%
たとえば、前期の給与総額が4000万円(10人)、当期の給与総額が4500万円(12人)だとすると、
給与増加額=4500万円-4000万円=500万円
前事業年度の給与額×雇用者増加率×30%=4000万円×2人÷10人×30%=240万円
500万円 ≧ 240万円 ⇒ 条件を満たす
雇用促進計画の実態は労働保険加入者数の確認手続きに過ぎない
雇用促進税制を適用するためには雇用促進計画をハローワークに提出する必要があるわけですけど、この雇用促進計画にはどのような意味があるのでしょうか?
計画の遂行を事業者に求めるのであれば、増員計画の数値目標を達成できた場合に限り、税制上の恩典を与える!ということになるはずです。
しかし、条文上、計画の達成云々は記述されていません。
3人増員の計画を提出していて2人しか増員できなかった場合でも2人分の税額控除を認めることになりますし、同じく3人増員の計画を提出していて4人増員した場合は4人分の税額控除が認められることになってしまうのです。
結局のところ、
・ 厚生労働省としては、雇用保険の加入を促進したい(雇用促進計画2によりハローワーク利用による求人を確保したい)
・ 国税としては、雇用保険の加入を条件としてもいいけど、その正確性を確認する術がない
だから、ハローワークに事前に計画を提出させ、雇用保険加入実績を確認できたもののみ、税制上優遇しようということになったとしか思えません。
経営者としてはとりあえず出しとくぐらいの感覚で
上述の通り、雇用促進計画の計画値そのものに雇用促進税制の適用額は影響を受けません。
しかし、計画を期日までに提出しておかなければ、適用そのものを受けられなくなってしまいます。予算や事業計画のように、計画達成に向けて必死になる性格のものとは大違いだと認識しておいてください。
ということで、気楽な気持ちで「とりあえず出しとく!」と考えられたらよろしいかと思います。
雇用促進計画の雛形を見ると「社会保険労務士記載欄」というのがありますけど、社会保険労務士が作成しないと受理されないとか、社会保険労務士が作成した方が通りやすいといった書類ではありません。
労働保険被保険者数の確認手続きに過ぎないのですから。
また、計画作成にあたっては、
『目標増加数』を5人(中小企業は2人)としておくことです。
無理に多くする必要はありません。
必要書類と提出手続きは厚生労働省HPをご参照ください。
