取引先に対する災害支援策と税務
今回の大地震で取引先が被災された方も多くいらっしゃると思います。
一般被災者に向けた義援金とは別に、事業者として取引先の支援をできないものか!とお考えの経営者もいらっしゃることでしょう。
そこで、法人税基本通達などで定められている内容と注意点をコメントしてみます。
租税特別措置法通達 61の4(1)-10の3
取引先に対する災害見舞金等法人が、被災前の取引関係の維持、回復を目的として災害発生後相当の期間内にその取引先に対して行った災害見舞金の支出又は事業用資産の供与若しくは役務の提供のために要した費用は、交際費等に該当しないものとする。
(注)1 自社の製品等を取り扱う小売業者等に対して災害により滅失又は損壊した商品と同種の商品を交換又は無償で補てんした場合も、同様とする。
2 事業用資産には、当該法人が製造した製品及び他の者から購入した物品で、当該取引先の事業の用に供されるもののほか、当該取引先の福利厚生の一環として被災した従業員等に供与されるものを含むものとする。
3 取引先は、その受領した災害見舞金及び事業用資産の価額に相当する金額を益金の額に算入することに留意する。ただし、受領後直ちに福利厚生の一環として被災した従業員等に供与する物品並びに令第133条に規定する使用可能期間が1年未満であるもの及び取得価額が10万円未満のものについては、この限りでない。
上記の条件を満たしている災害見舞金は、交際費はもちろん、寄付金にもなりません。全額損金算入されます。
ただし、要件を満たしていることを証明できるよう取締役会議事録や稟議書で支出目的と取引先、金額を文書化しておくべきです。被災者から領収書を収受するのが難しい場合には、上記の記録をもって税務署に説明すればよいことになります。
「被災前の取引関係の維持、回復を目的として」ということですから、被災前の取引額をさらに上回る取引をしてもらえるようにといった営業拡大目的は、この取り扱いの対象にはならないと思われます。従って、従前の取引規模、被災状況に鑑み常識的な金額であることが必要と考えておくべきでしょう。
「取引先」の範囲と「支出時期」に関しては、下記の基本通達9-4-6の2と同様に考えて問題ないと思います。
ただし、取引先の従業員等個人に対する支出は、交際費等に該当することになります。また、取引先は当該見舞金を原則として益金算入する必要があります。
法人税基本通達 9-4-6の2
災害の場合の取引先に対する売掛債権の免除等法人が、災害を受けた得意先等の取引先(以下9-4-6の3までにおいて「取引先」という。)に対してその復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間(災害を受けた取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいう。以下9-4-6の3において同じ。)内に売掛金、未収請負金、貸付金その他これらに準ずる債権の全部又は一部を免除した場合には、その免除したことによる損失の額は、寄附金の額に該当しないものとする。
既に契約で定められたリ-ス料、貸付利息、割賦販売に係る賦払金等で災害発生後に授受するものの全部又は一部の免除を行うなど契約で定められた従前の取引条件を変更する場合及び災害発生後に新たに行う取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様とする。
(注)「得意先等の取引先」には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等のほか、商社等を通じた取引であっても価格交渉等を直接行っている場合の商品納入先など、実質的な取引関係にあると認められる者が含まれる。
直接現金や物品で被災を支援するのではなく、債権放棄するタイプの支援方法です。この場合も寄付金にはなりません。全額損金算入できます。
債権放棄は現金が動きませんから、債権放棄通知書などを文書化し、確定日付を公証人役場で取得するなど、事実が発生した日を明確にしておく必要があるでしょう。この債権放棄額は貸倒損失になりますから、取締役会議事録等でその意思決定過程を明確にしておく必要があります。
「取引先」の範囲が「(注)」で、書面上、直接の取引関係にないとしても実質的な顧客であればよいことが示されています。
また、「期間」に関しても「営業活動を再開するための復旧過程にある期間」とされています。災害によって負った損失を取り戻すべく営業活動を開始した後は含まれません。あくまでも営業再開日までの期間になります。租特通達 61の4(1)-10の3も同様に考えるべきでしょう。
法人税基本通達 9-4-6の3
災害の場合の取引先に対する低利又は無利息による融資法人が、災害を受けた取引先に対して低利又は無利息による融資をした場合において、当該融資が取引先の復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に行われたものであるときは、当該融資は正常な取引条件に従って行われたものとする。
こちらは資金援助を行う場合の低利貸付という支援方法についてです。通常の取引関係では寄付金認定されますが、被災取引先に対して上記の要件を満たす場合には、寄付金にはならず、全額損金算入できます。
法人税基本通達 9-7-15の4
災害見舞金に充てるために同業団体等へ拠出する分担金等法人が、その所属する協会、連盟その他の同業団体等(以下9-7-15の4において「同業団体等」という。)の構成員の有する事業用資産について災害により損失が生じた場合に、その損失の補てんを目的とする構成員相互の扶助等に係る規約等(災害の発生を機に新たに定めたものを含む。)に基づき合理的な基準に従って当該災害発生後に当該同業団体等から賦課され、拠出した分担金等は、9-7-15の3の取扱いにかかわらず、その支出した日の属する事業年度の損金の額に算入する。
同業者団体を通じて支援するものも含みます、という定めです。
起業は自己資金で賄うのが原則
2011年3月18日 | 起業支援
起業したらどれぐらい借入できますか?
無料相談でこのような質問を受けることがあります。
確かに、起業支援のための融資制度が多数あります。
実際に融資を受けることもできます。
しかし、起業で過度に融資に期待することはどうかと思います。
金融機関は、事業性を評価するのが苦手です。
むしろ、過去の(融資の)失敗事例を考慮する傾向があります。
事業が成功するかしないかは、本来、過去の他人の事例とは無関係です。
その起業家の経験と行動力に影響される側面の方が多いものです。
金融機関は、事業性よりもその人の過去の実績を重視する傾向があります。
誰もが納得するような実績がある人は融資を受けやすくなりますが、そうではない場合には厳しい審査結果に終わることも覚悟しておくべきでしょう。
融資は厳格な契約に基づくもの
融資は言うまでもなく『借金』です。
融資は、返済されることを前提に行われるものです。
出世払いを前提に融資を行う金融機関はありません。
このことを明確にするために、厳格な内容の金銭消費貸借契約書が作成されます。
当たり前のことです。
金銭消費貸借契約書には経営者の連帯保証や担保提供が規定されます。最低でも経営者の連帯保証が必要になります。
借入が実行された直後は資金的に余裕がありますが、売上の状況とは無関係に契約どおりどんどん返済が進められていきます。
それ故に、綿密な収支計画を練っていなければなりません。
売上について楽観的な見込をしてはいけませんし、万が一予定通りに売上が確保できない場合のことも想定した収支を計画しておかなければなりません。
リターンマッチが日本にはない
問題なのは、融資を受けていて返済ができなくなった場合です。
返済に遅延が生じれば、連帯保証等の履行請求が行われ、個人財産からの回収が行われることになります。金融機関は事務的に回収手続きを実施するものです。
回収手続きに入った段階で事故案件にエントリーされる可能性が高いと考えておかなければなりません。
個人財産で弁済が完了できればよいのですが、不足が生じてしまった場合、一生をかけて残債の弁済をしていかなければなりません。破産という方法もありますが、金融機関から見れば事故債権であることに変わりはありません。
残念なことに日本では、こうした金融事故に対して非常に厳しい対応をとられます。
再起をかけて新規事業を立ち上げたとしても、金融機関からの融資は事実上不可能になってしまうのです。
新規起業の場合、政策金融公庫と信用保証協会の保証付き融資になると思います。以前は両者で信用情報を共有していなかったようですが、現在は情報共有がなされ、政策金融公庫での事故情報は保証協会に、保証協会の事故情報は政策金融公庫に、それぞれ共有されているということです。
過去の金融事故が呪いのようにつきまとってくるのが現状なのです。
起業資金は自己資金を原則としましょう
起業に際して、金融機関からの融資に過度に期待しないことが大切です。
何の根拠もなく収支計画に『銀行融資』を織り込んで退職してしまうのは危険です。計画通りの融資を受けられなければ、いきなり事業プラン自体を変更しなければなりません。
融資を受けられたとしても、計画通りに売上を獲得できなければ返済に窮してしまいます。
起業資金の大半を融資に頼った収支計画では、金融機関も融資をしにくいものです。
起業自体がもともとリスクのあるものであり、本人がそのリスクを負担しないで金融機関に頼るという姿勢がマイナス評価になるわけです。
起業資金のほぼ全額を自己資金で賄うのが理想です。
少なくとも起業資金の半分は自己資金で賄い、残りを金融機関に融資してもらう計画にすべきです。
もし、自己資金を確保できないのであれば、起業プラン自体を見直すか、自己資金を貯めてから再検討すべきだと思います。
個人向け国債の中途換金
2011年3月17日 | 時事
運用していた国債を資金繰りに使いたい場合には、以下のような特例措置が講じられています。
平成23年3月15日
財 務 省東北地方太平洋沖地震等の被災者の方が個人向け国債の
中途換金を請求する場合の手続の特例について個人向け国債については、中途換金ができない期間(変動10年・固定3年は発行から1年間、固定5年は発行から2年間)であっても、災害救助法による救助の行われる災害が発生し、当該災害にかかったときは、罹災証明書等を提出すれば中途換金ができることとなっています。
しかしながら、今回の東北地方太平洋沖地震及び長野北部の地震では、一部の市町村役場が直接災害を受けるなど、中途換金の際に必要な罹災証明書等の提出が困難な場合も想定されます。
このため、中途換金を希望する被災者の方が円滑に中途換金を受けられるよう、本人の氏名及び対象地域に居住していることが確認できる場合には、臨時特例措置として、罹災証明書等の提出がなくても中途換金を受け付けることとします。(注)今回の臨時特例措置の対象地域は、上記両地震により多数の者が生命又は
身体に危害を受け、又は受けるおそれが生じ、避難して継続的に救助を必
要として災害救助法の適用を受けている市町村(現在のところ、岩手県、
宮城県、福島県、青森県、茨城県、栃木県、千葉県 、長野県及び新潟県内
の一部市町村)です。なお、今後、災害救助法の適用区域が拡大されれば
対象地域として自動的に追加されます。
