コラム

ガン保険の改正と会計処理

2012年5月7日 | 税金の基礎知識

節税商品のガン保険の取扱いが改正された

これまでガン保険は、保険料の支払い時に全額損金算入が認められる保険として、法人税の節税目的に多用されてきました。
しかし、とうとう国税のメスが入り全額損金算入が認められないことになりました。
詳細は、『法人が支払う「がん保険」(終身保障タイプ)の保険料の取扱いについて(法令解釈通達)』として公開されています。

平成24年4月27日以降契約の保険料はこの通達に従うこととされましたので、事実上、全額損金の取扱いができなくなることになりました。なお、同日前に契約した保険料に関しては、従来どおり全額損金算入とされることになっています。

改正後のガン保険の会計処理(終身払込)

例によって、通達の会計処理は複雑怪奇なので設例で確認しておきます。
まずは、終身払込の契約である場合です。

保険期間とは、被保険者が保険契約時の年齢から105歳に達するまでの期間とされています。
前払期間とは、保険期間×1/2として計算した年数(端数切捨)とされています。

  1. 前払期間中の処理

  2. 支払保険料  50 / 現預金  100
    前払費用   50
    100×1/2=50

  3. 前払期間経過後の処理

  4. 支払保険料 149 / 現預金  100
    前払費用  49
    1600×1/(105-(40+32))=48.5

  5. 前払期間中に解約した場合の処理

  6. 現預金   240 / 解約返戻金 240
    支払保険料 150 / 前払費用 150
    (3年経過後に解約、返戻率80%とする)
    100×3年×80%=240
    50×3年=150

改正後のガン保険の会計処理(有期払込)

次は、有期払込の契約の場合です。

保険期間と前払期間は、終身払込と同じです。

  1. 払込期間中の処理

  2. 支払保険料  7.5 / 現預金  100
    前払費用   92.5
    100×10年/65年=15(当期分保険料)
    15×1/2+(100-15)=92.5
    100-92.5=7.5

  3. 払込期間経過後の前払期間の処理

  4. 支払保険料  7.5 / 前払費用 7.5
    15×1/2=7.5

  5. 前払期間経過後の処理

  6. 支払保険料 17.3 / 前払費用 17.3
    15/2×32年 ×(1/(105-(40年+32年)))=7.3(取崩損金算入額)
    15+7.3=22.3

  7. 払込期間中に解約した場合の処理

  8. 現預金   240 / 解約返戻金 240
    支払保険料  277.5 / 前払費用 277.5
    (3年経過後に解約、返戻率80%とする)
    100×3年×80%=240
    92.5×3年=277.5

事実上、節税効果はなくなった

上記の説例でおわかりの通り、ガン保険の節税効果はなくなったといってよいでしょう。
保険としての本来の目的、すなわち、保険事故に対する保障以外に意味はなくなったということになります。
こうした保障は、これまでもある1/2損金型の生命保険に特約条項を付すことでカバーできるものがたくさんあります。保険目的にあわせて慎重にご検討ください。

「従業員を退職させて退職金支給」は節税になるのか?

2012年5月1日 | 税金の基礎知識

退職金は1/2課税だから決算賞与よりもお得!?

決算対策として退職金を支給してしまえ!
いろんなことを考える人がいるものです。
こういう考えをもつ経営者はかなり税法に詳しい方です。

退職所得 = ( 支給総額 - 退職所得控除 ) × 1/2

と計算しますから、決算賞与として従業員に金銭を支給するよりも従業員の負担は軽くなるし、退職金は全額会社の費用になるから法人税の節税にもなる!という理屈です。

退職した従業員は再度雇用しなおすとか、別会社に形式上転籍させて実態としては従来と同じ業務体制を維持する!!なんて考えたことはありませんか?

本当に退職金と認められるのか

倒産処理にあたり、全従業員を一度解雇し、再雇用しなおすという実務があります。
雇用条件の見直しや継続雇用したい人材の再登用を行うことで、再建をより確実にするという趣旨のもと行われるものです。この手続きを行う合理的理由があって、その結果退職金が発生するのであれば何ら問題はありません。

節税!というのは上記のような合理的な理由になるのか?というところがポイントになります。

経済実態としては速やかに再雇用されているため退職の事実がなく、このような複雑な手続きを実行する合理的な理由がなかったとすれば、退職を仮装した賞与支給と認定される恐れがあります。
退職所得の1/2課税のメリットもなかったことにされてしまうかもしれません。
悪質だということで重加算税を課税されてしまうかもしれません。

税務は形式を重視することが多い反面、実質を重視する局面もしばしばあります。安易な節税策に溺れることのないようご注意ください。

税務調査で妻の給与が高すぎると言われたらどうする?

2012年4月25日 | 税金の基礎知識

家族従業員の給与が高すぎると指摘された

こんな経験ありませんか?
中小企業では奥さんが会社業務を社長とともに行っていることはよくあることです。
こんなとき、税務署職員から、ホントに働いているのですか?という色眼鏡の質問を受けることがあります。
税法の世界では、同族会社ではいい加減なことが行われる可能性が高い!という前提で規制が行われている側面がありますから、税務調査で嫌らしい質問を受けることがある訳です。

勤務実態がない場合

帳簿上だけ給与を支給しておいて、奥さんは実際には何もしていない(汗)
しかも、奥さん宛に支給した給与を社長が使っている(汗汗)
このような事実を調査官に把握された場合はどうにもなりません。

実際に仕事していて、その金額が高すぎるというのであれば議論のしようもあります。しかし、仕事をしていることにして給与を支給するのは反則です。諦めるしかないです。
てん末としては、社長への給与とみなされることになるでしょう。

きちんと仕事しているなら言いがかりです

勤務実態があるのに実質的には社長の報酬と同じだ!というのは、税務署の言いがかりです。仕事内容に応じた給与を会社が支払うのは当然のことで、家族労働者というだけで否定されるのは間違えです。
このような場合には、勤務実態があることを丁寧に説明すれば、比較的簡単に収まるはずです。

問題なのは金額の当否

たとえば、経理や給与計算、請求書の発行を奥さんが行っていることはよくあります。その労働の対価として40万円を支給していたら、「高すぎる!20万円が妥当なのではないか!?」なんて指摘を受けるケースの場合です。

いくらなら妥当でいくらからは不当というのは難しい問題です。
他の従業員への給与と同程度の水準ならそもそも指摘されることはないと思われます。
仕事の内容と比較して、高いかな?と思われる場合にこのような指摘を受けるわけですからね。
このような場合には、『なぜ20万円が妥当と仰るのですか?』と聞いてみてください。
具体的な金額を税務調査官が言ってしまっているのですから、その根拠を示してもらうべきです。合理的で明確な根拠を示してもらえないのであれば、その指摘を受け入れる必要はありません。というよりも受け入れてはいけません。

もっとも、いくらが妥当では?なんて聞き方は通常してきませんけどね。

安易に修正申告に応じてはいけない

納税者にはわかりにくいのですけど、税務修正には2つの方法があります。1つは修正申告、もうひとつは更正といいます。
修正申告は納税者自らが誤りを認めて過去の申告内容を修正するもの。更正は、国税の権限で強制的に行う処分です。
更正に対して不服があれば、国税不服審判所に審査請求することが納税者の権利として認められています。修正申告は納税者自らが誤りを認めて行うものなので、たとえ調査官に指導されたものであったとしても、このような審査請求の道は拓かれていません。
原則として税務署は審査請求されても勝てる場合にしか更正をしてきません。

いくらが適切な金額なのかは納税者が決める問題です。
明らかに税務署の指摘が適切だと判断されるのでない限り、安易に認めてしまうと大きな負担になってしまうので注意しましょう。




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上原将人(上原公認会計士事務所) × 阿部淳也(1PAC. INC.)

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