税務署に役員への経済的利益を臨時給与(役員賞与)と言われたとき、未収入金処理を主張できるか
2012年5月9日 | 税金の基礎知識
会社の経費項目のうちいくつかが社長の個人経費と認定された
たとえば、社長の家族旅行の費用が会社経費にされていた、会社の業務目的とは関係のない飲食費が会社経費とされていたと言ったものです。税務調査ではこのような支出が経費処理されていないかもチェックされています。
通常は、これらの経費は会社の経費ではなく、社長個人の経費なのだから(損金不算入の)役員給与です!と指摘されることでしょう。
損金不算入の役員給与の負担は大きい
役員給与は、定期同額給与と事前確定届出給与(及び一定の利益連動給与)以外は損金不算入とされています。上記のような「実質的に給与を支給したのと同様の経済的効果をもたらすもの(経済的利益)」も役員給与(法人税基本通達9-2-9)とされています。
経済的利益の給与認定を受けると色々な問題が発生します。
- 定額ではない経済的利益は損金不算入役員報酬となる(法人税が増える)
- 役員給与について、遡及的に源泉徴収が必要となる
- 延滞税や過少申告加算税が課税される
- 仮装隠ぺいを伴う場合には重加算税が課税される
- 認定を受けた役員の所得税も修正申告が必要となる
これらの負担は非常に大きなものとなりますから、なんとか避けたいところです。
経済的利益相当分が会社から流出しないことにしたら
既に出てしまったお金な訳ですが、実質的に流出しないことできたらどうなるでしょう。
わかりにくいですかね。
要するに、家族旅行の費用は社長個人が負担すべきであったことを認め、その分のお金を会社に返金するということです。
もし、このような処理を認めてもらうことができたなら、返金しなければならないという負担は生じますけど、
- 損金不算入役員報酬は発生しない
- 源泉徴収を行う必要はない
- 延滞税や過少申告加算税は当然課税されない
- 重加算税も課税されない
- 所得税を追加で支払う必要はない
ということになってしまいます。
返金するよりも法人税と所得税、これらに対する付帯税を払った方が負担が少ないということもあるかもしれませんが、逆に軽いこともありえます。
社長が返金しないから、その取引行為はその段階で確定的に終結してしまう訳です。ところが返金すると主張されてしまうと、取引は継続していることになってしまうとも言えなくはありません。
なお、返金することとする場合、未収入金ないし貸付金ということになりますから、認定利息の負担も議論になりますのでご注意ください。
必ず認められるわけではありませんのでご注意を
上記のような主張が必ず認められるとは限りません。
そんなことを認めたら、
指摘を受けたものだけ、返金すれば課税回避できてしまうではないか!!
という反論が返ってくることでしょう。
でも、必ず認められないと条文に書いてあるわけでもありません。
主張してみるだけ主張してみるのも方法です。
悪質性がなければ、認められるかもしれません。
調査官にも色々な人がいますし、他の指摘項目との兼ね合いもありますので、もし、このようなことになったら、顧問税理士の先生と相談してみるといいかもしれません。
ガン保険の改正と会計処理
2012年5月7日 | 税金の基礎知識
節税商品のガン保険の取扱いが改正された
これまでガン保険は、保険料の支払い時に全額損金算入が認められる保険として、法人税の節税目的に多用されてきました。
しかし、とうとう国税のメスが入り全額損金算入が認められないことになりました。
詳細は、『法人が支払う「がん保険」(終身保障タイプ)の保険料の取扱いについて(法令解釈通達)』として公開されています。
平成24年4月27日以降契約の保険料はこの通達に従うこととされましたので、事実上、全額損金の取扱いができなくなることになりました。なお、同日前に契約した保険料に関しては、従来どおり全額損金算入とされることになっています。
改正後のガン保険の会計処理(終身払込)
例によって、通達の会計処理は複雑怪奇なので設例で確認しておきます。
まずは、終身払込の契約である場合です。
保険期間とは、被保険者が保険契約時の年齢から105歳に達するまでの期間とされています。
前払期間とは、保険期間×1/2として計算した年数(端数切捨)とされています。
- 前払期間中の処理
- 前払期間経過後の処理
- 前払期間中に解約した場合の処理
支払保険料 50 / 現預金 100
前払費用 50
100×1/2=50
支払保険料 149 / 現預金 100
前払費用 49
1600×1/(105-(40+32))=48.5
現預金 240 / 解約返戻金 240
支払保険料 150 / 前払費用 150
(3年経過後に解約、返戻率80%とする)
100×3年×80%=240
50×3年=150
改正後のガン保険の会計処理(有期払込)
次は、有期払込の契約の場合です。
保険期間と前払期間は、終身払込と同じです。
- 払込期間中の処理
- 払込期間経過後の前払期間の処理
- 前払期間経過後の処理
- 払込期間中に解約した場合の処理
支払保険料 7.5 / 現預金 100
前払費用 92.5
100×10年/65年=15(当期分保険料)
15×1/2+(100-15)=92.5
100-92.5=7.5
支払保険料 7.5 / 前払費用 7.5
15×1/2=7.5
支払保険料 17.3 / 前払費用 17.3
15/2×32年 ×(1/(105-(40年+32年)))=7.3(取崩損金算入額)
15+7.3=22.3
現預金 240 / 解約返戻金 240
支払保険料 277.5 / 前払費用 277.5
(3年経過後に解約、返戻率80%とする)
100×3年×80%=240
92.5×3年=277.5
事実上、節税効果はなくなった
上記の説例でおわかりの通り、ガン保険の節税効果はなくなったといってよいでしょう。
保険としての本来の目的、すなわち、保険事故に対する保障以外に意味はなくなったということになります。
こうした保障は、これまでもある1/2損金型の生命保険に特約条項を付すことでカバーできるものがたくさんあります。保険目的にあわせて慎重にご検討ください。
「従業員を退職させて退職金支給」は節税になるのか?
2012年5月1日 | 税金の基礎知識
退職金は1/2課税だから決算賞与よりもお得!?
決算対策として退職金を支給してしまえ!
いろんなことを考える人がいるものです。
こういう考えをもつ経営者はかなり税法に詳しい方です。
退職所得 = ( 支給総額 - 退職所得控除 ) × 1/2
と計算しますから、決算賞与として従業員に金銭を支給するよりも従業員の負担は軽くなるし、退職金は全額会社の費用になるから法人税の節税にもなる!という理屈です。
退職した従業員は再度雇用しなおすとか、別会社に形式上転籍させて実態としては従来と同じ業務体制を維持する!!なんて考えたことはありませんか?
本当に退職金と認められるのか
倒産処理にあたり、全従業員を一度解雇し、再雇用しなおすという実務があります。
雇用条件の見直しや継続雇用したい人材の再登用を行うことで、再建をより確実にするという趣旨のもと行われるものです。この手続きを行う合理的理由があって、その結果退職金が発生するのであれば何ら問題はありません。
節税!というのは上記のような合理的な理由になるのか?というところがポイントになります。
経済実態としては速やかに再雇用されているため退職の事実がなく、このような複雑な手続きを実行する合理的な理由がなかったとすれば、退職を仮装した賞与支給と認定される恐れがあります。
退職所得の1/2課税のメリットもなかったことにされてしまうかもしれません。
悪質だということで重加算税を課税されてしまうかもしれません。
税務は形式を重視することが多い反面、実質を重視する局面もしばしばあります。安易な節税策に溺れることのないようご注意ください。