税務調査で妻の給与が高すぎると言われたらどうする?
2012年4月25日 | 税金の基礎知識
家族従業員の給与が高すぎると指摘された
こんな経験ありませんか?
中小企業では奥さんが会社業務を社長とともに行っていることはよくあることです。
こんなとき、税務署職員から、ホントに働いているのですか?という色眼鏡の質問を受けることがあります。
税法の世界では、同族会社ではいい加減なことが行われる可能性が高い!という前提で規制が行われている側面がありますから、税務調査で嫌らしい質問を受けることがある訳です。
勤務実態がない場合
帳簿上だけ給与を支給しておいて、奥さんは実際には何もしていない(汗)
しかも、奥さん宛に支給した給与を社長が使っている(汗汗)
このような事実を調査官に把握された場合はどうにもなりません。
実際に仕事していて、その金額が高すぎるというのであれば議論のしようもあります。しかし、仕事をしていることにして給与を支給するのは反則です。諦めるしかないです。
てん末としては、社長への給与とみなされることになるでしょう。
きちんと仕事しているなら言いがかりです
勤務実態があるのに実質的には社長の報酬と同じだ!というのは、税務署の言いがかりです。仕事内容に応じた給与を会社が支払うのは当然のことで、家族労働者というだけで否定されるのは間違えです。
このような場合には、勤務実態があることを丁寧に説明すれば、比較的簡単に収まるはずです。
問題なのは金額の当否
たとえば、経理や給与計算、請求書の発行を奥さんが行っていることはよくあります。その労働の対価として40万円を支給していたら、「高すぎる!20万円が妥当なのではないか!?」なんて指摘を受けるケースの場合です。
いくらなら妥当でいくらからは不当というのは難しい問題です。
他の従業員への給与と同程度の水準ならそもそも指摘されることはないと思われます。
仕事の内容と比較して、高いかな?と思われる場合にこのような指摘を受けるわけですからね。
このような場合には、『なぜ20万円が妥当と仰るのですか?』と聞いてみてください。
具体的な金額を税務調査官が言ってしまっているのですから、その根拠を示してもらうべきです。合理的で明確な根拠を示してもらえないのであれば、その指摘を受け入れる必要はありません。というよりも受け入れてはいけません。
もっとも、いくらが妥当では?なんて聞き方は通常してきませんけどね。
安易に修正申告に応じてはいけない
納税者にはわかりにくいのですけど、税務修正には2つの方法があります。1つは修正申告、もうひとつは更正といいます。
修正申告は納税者自らが誤りを認めて過去の申告内容を修正するもの。更正は、国税の権限で強制的に行う処分です。
更正に対して不服があれば、国税不服審判所に審査請求することが納税者の権利として認められています。修正申告は納税者自らが誤りを認めて行うものなので、たとえ調査官に指導されたものであったとしても、このような審査請求の道は拓かれていません。
原則として税務署は審査請求されても勝てる場合にしか更正をしてきません。
いくらが適切な金額なのかは納税者が決める問題です。
明らかに税務署の指摘が適切だと判断されるのでない限り、安易に認めてしまうと大きな負担になってしまうので注意しましょう。
親族に対する役員報酬にご注意を
2012年4月23日 | 税金の基礎知識
家族を役員にして節税?
同族会社では代表者の家族が役員になっているケースがよくあります。
このようにすれば節税できると考えている代表者もいらっしゃるのではないでしょうか?
なぜ節税になるかというと、代表者の役員報酬が高額なればなるほど所得税の税率が高くなるからです。
たとえば、役員報酬として確保したいと考えている金額が2500万円だとします。
これを代表者一人でとると所得税の税率は40%となります(扶養家族なしとします。以下の同じ)。奥様と長男を役員にしてそれぞれ500万円ずつ役員報酬を支給し、代表者の役員報酬を1500万円にしたとします。代表者の所得税の税率は33%、奥様と長男の税率は20%になってしまいます。
所得税の税率が累進税率であるため、このような結果になってしまう訳です。
平成24年度税制改正で、給与所得控除の上限設定(245万円)が行われるため、このような工夫(?)を行う会社が増えるのではないかとも思われます。
役員であれば役員報酬を支給できる訳ではない
役員報酬は従業員とは異なり、常勤していなくても支給することができます。タイムカードを打刻していないこともあるかもしれません。ならば、家族を役員にしてそれぞれに報酬を支給すれば、税制改正にも対応できる!なんて考えていませんか?
大前提として、役員報酬のうち不相当に高額な部分の金額は損金算入できないことになっています。不相当に高額かどうかは、その役員の職務内容、法人の収益状況、使用人に対する給与の支給状況などを総合的に勘案して判断することになっています。
家族役員が会社の業務に従事していれば、少なくとも何らかの給与が支給されることに問題は生じないでしょう。
問題なのは、会社の業務にも経営にも係わっていないのに、役員登記されているのだから報酬を払う、というパターンです。何もしていないのだから、全額が不相当に高額だ!と言われたらどうしましょう(汗)
取締役会の議事録に名前を形式上残しておけばよいのでしょうか。
国税調査官が、勤務実態や議事録の内容についてご本人に質問したらどうしますか?税務調査では、社員や取引先に質問が行われることもないわけではありません。
黙認されてきただけかもしれない
家族役員について税務調査で厳しく質問されていなかったように思います。
これまで大丈夫だったから税務署が認めている!ということには必ずしもなりません。
場合によっては、過去に調査済みの年度に遡って修正を求められることも理屈上ありうるのです。
とは言うものの、家族役員への役員報酬の適正額を税務署が決定するのは難しいものです。
会社の仕事をしている家族役員に40万円の報酬を支給していて、そのうち30万円であればOKだけど、超過分は損金算入を認め難いなんて言えるでしょうか?
勤務実態がないことが明らかになった家族役員の報酬は、ゼロ円ですよね!というのであれば、指摘し易くなります。役員としての対外責任を負っているのにホントにゼロが正しいのかという議論は当然ありますけどね。
いずれにしても、家族役員に報酬を支給する場合には、その金額の妥当性を説明できるようにしておくべきです。特に、24年改正の給与所得控除制限の潜脱事例はないか!という重点調査目的が指揮されないとはいえませんから。
勤務実態がないとされた事例
未成年で就学中の取締役3名に対する報酬名義の金員は、父であり請求人会社の実質的支配者たる代表取締役に支給された報酬であり報酬限度額を超えるから、損金の額に算入することはできないとした事例(棄却)(平成2年4月6日裁決)
【裁決の要旨】
請求人は、取締役3名に対する報酬名義の金員は適法に選任されたこれら取締役に対する報酬であつて損金の額に算入されるべきである旨主張するが、①取締役らは、取締役就任当時未成年で就学中であり、かつ、うち2名は日本に滞在した期間がごく短いことから、請求人の事業内容を把握し、取締役会に出席して意見を述べ議決権を行使し得る状況にはなかつたものと認められ、②取締役らが、請求人の発行株式の過半数を所有しているとしても、それは、親権者である父母が同人らを株主にしたのであつて、実質的に請求人を支配、管理しているのは、父であり請求人の実質的支配者である代表取締役であると認められる。また、③取締役らの報酬名義の金員が預け入れられた同人ら名義の普通預金は、代表取締役が実質的に支配、管理するものと認められるから、その報酬名義の金員は、代表取締役に支給されたものと認めるのが相当である。
更に、④請求人は、株主総会決議に基づき取締役会において役員ごとにその報酬限度額を定めているところ、代表取締役に支給されたものとされる上記の報酬額は、支給限度額を超えることとなり、損金の額に算入することはできない。
全文はとんでもなく長いので、国会図書館等で確認してください。ネットには転がっていないようです。
要旨だけではわからないのですが、問題となった未成年取締役は取締役就任時、13歳、15歳、16歳だったようです。これはさすがにアレですよね。
役員報酬として3社から月額20万円、10万円、10万円が3名各人に支給されていたようです。金額的にはありかな?と一瞬思いましたが、年齢等を考えるとアレですよね。
国税調査官は、未成年の取締役に質問調査権を行使していたようです。要するに、直接質問を行い、業務の理解度や議論の経過を質問したようです。
アレな部分が多い事例ではありますけど、実際に調査ポイントとなったのは今回の記事内容そのまんまでした。
「社会通念」は重要ですね。
使用人兼務役員の使用人分給与の決め方
2012年4月18日 | 税金の基礎知識
役員分の給与と使用人分給与が混在
使用人兼務役員は、使用人としての職制上の地位と役員としての地位を同時に持つ役員でした。
その人に対する給与は、役員報酬部分と使用人給与部分が含まれていることになる訳です。
たとえば、月額支給額が50万円の場合、これを役員報酬分と使用人給与分に区分しなければなりません。区分しなければ、使用人兼務役員のメリットを活かすことができなくなってしまいます。明確なポリシーがないまま、支給額の全額を役員報酬としている中小企業もしばしば見かけます。
使用人分給与をいかに増やすかがポイント
使用人兼務役員のメリットを活かすためには、いかに使用人分給与を増やすかがポイントとなります。
50万円のうち、25万円が役員報酬分、残りの25万円分が従業員給与!と適当に決めてしまってはいけません。
法人税のメリットは使用人分としての賞与を支給できることでした。
月額給与の2カ月分を支給するのであれば、役員報酬以外の使用人分給与をベースに算定することになります。使用人分給与が25万円なら50万円の賞与になりますし、30万円なら60万円の賞与ということになります。
雇用保険のメリットは退職後の雇用保険の受給が可能ということでした。
雇用保険は退職前6ヶ月間の賃金総額から日額を計算して、その80%から45%が支給されることになります。80%の支給を前提とすると25万円であれば20万円、30万円であれば24万円の支給額ということになる訳です。
法人税の考え方
使用人兼務役員の給与総額を使用人部分と役員報酬部分に区分しなければなりません。
法人税では次のように計算することになっています。
役員報酬 = 支給総額 - 適正使用人分給与
つまり、適正使用人分給与を先に決めて、役員報酬は結果として決まるということです。
使用人分給与を多くした方が有利だからということで、支給総額の全額を使用人分給与として、役員報酬をゼロにしてしまうという単純な考え方は認められません。
あくまでも使用人分の給与は適正な金額までしか認められないのです。
使用人分の給与の適正額
適正使用人分給与について次の通達があります。
法人税基本通達 9-2-23
使用人分の給与の適正額
使用人兼務役員に対する使用人分の給与を令第70条第1号ロ《限度額等を超える役員給与の額》に定める役員給与の限度額等に含めていない法人が、使用人兼務役員に対して使用人分の給与を支給した場合には、その使用人分の給与の額のうち当該使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務とおおむね類似する職務に従事する使用人に対して支給した給与の額(その給与の額が特別の事情により他の使用人に比して著しく多額なものである場合には、その特別の事情がないものと仮定したときにおいて通常支給される額)に相当する金額は、原則として、これを使用人分の給与として相当な金額とする。この場合において、当該使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務の内容等からみて比準すべき使用人として適当とする者がいないときは、当該使用人兼務役員が役員となる直前に受けていた給与の額、その後のベ-スアップ等の状況、使用人のうち最上位にある者に対して支給した給与の額等を参酌して適正に見積った金額によることができる。
要するに、
取締役経理部長の経理部長としての給与は、たとえば取締役ではない総務部長の給与を基準として決めましょう、ということです。
経理部長と総務部長を比較するのであればわからなくもありませんが、取締役営業部長の営業部長分の給与を経理部長と比較して決めるのは釈然としないのは僕だけではないと思います。
こんなことありますよね
ある程度の規模の会社であれば、比較する役職者(比準使用人といいます)が多数いるかもしれませんが、中小企業では比準使用人として適切な人がいないかもしれません。
こうした実情に配慮して、比準使用人がいない場合の対処方法も通達には記述されています。しかし、これですべてが解決できるわけでもないと思います。
全員が役員で全員が事業運営の実務をしている
ベンチャー企業で外部の人材を役員登用し、同時にラインの部門長を兼任してもらっている
親会社で部長職の人が取締役として送り込まれ子会社で部門長も兼務している。親会社とは給与格差があるため給与が突出している
創業時から取締役で実務を担当してきた。拡大に応じて社員が増加したが給与水準が比較にならない
取締役が退任したので定員不足を補うために社員を役員昇格させた。実態は従業員と同じなので給与総額はほとんど上げていない
合理的なロジックを組むことが大切
国税調査官は、使用人兼務役員の給与についてすぐに上記の通達を思い出します。
通達に準拠していないから修正が必要!と指摘されることもありえます。
少なくとも、通達に記載された方法に準拠していない場合には、どのようなロジックで役員報酬と使用人分給与を区分したのか質問されることでしょう。
上記は、あくまでも「通達」であって「法律」ではありません。通達は判断指針として国税調査官を拘束するものではありますが、納税者を拘束するものではありません。
納税者サイドに合理的なロジックがあり、課税上の弊害がなければ問題なく認めてもらえるものです。現に、通達にも「等を参酌し」と記載されています。例示された計算方法以外認められないというようなことはありません。
これまでに何度も指摘を受けたことがありますけど、きちんと説明したら納得してもらえました。
使用人兼務役員に使用人分賞与を支給するとこの問題が表面化してきます。
指摘されてから考えるのではなく、きちんとした論拠をもって適正使用人分給与を決定し、書面化しておくことが大切です。