使用人兼務役員は得なの?
2012年4月16日 | 税金の基礎知識
使用人兼務役員とは
法人税には「使用人兼務役員」という用語があります。使用人としての職制上の地位を有した役員とされています。
取締役営業部長とか、取締役管理部長とかの肩書きをもっている人です。ちょっと大きな会社になるとこういう肩書きの役員を設置していることがあります。そうはいうものの代表取締役社長、取締役営業部長と取締役管理部長の3名しかいないという会社もあります。監査役経理部長というのもたまに見かけますが、使用人兼務役員ではないことになっています。なんだかややこしいです。
使用人兼務役員のメリット
この使用人兼務役員という地位の役員は他の役員に比べて次のようなメリットがあります。
賞与を支給することができる
役員に対して賞与を支給して、その支給額を損金にするためには、事前確定届出給与制度を適用しなければなりません。事前確定届出給与は一定の期限までに税務署に「誰に、いつ、いくら」臨時の報酬を支払うと届出て、その通りに支給しなければ損金不算入の給与とされてしまいます。
ところが、使用人兼務役員の場合には、使用人としての地位に対する賞与であれば、法人税の計算上損金にすることができることになっています。会社の業績の状況やその使用人兼務役員の貢献度合いを検討して賞与額を会社が決定することができます。
役員に対する給与は利益調整に利用され易いので、法人税はガチガチに規制していますから、使用人兼務役員にするとお得!?といえるかもしれません(そう単純な話ではないのですけど)。
雇用保険に加入できる
税制上のメリットだけではありません。
会社の役員は経営者なので雇用保険に加入することができません。しかし、使用人兼務役員であれば、使用人としての地位がありますから、使用人としての立場の部分に関しては雇用保険に加入できることになっています。
取締役会設置会社の場合、3名以上の取締役を設置する必要がありますが、実際には社員の中から名目的な取締役を選任して人数あわせしている会社もあります。仕事内容は従来の社員時代と何も変わらないのに、取締役になってしまったので雇用保険に加入できなくなってしまった!というのは考えようによっては悲劇です。このような場合にも使用人兼務役員という立場はメリットともいえます。
使用人兼務役員になれない場合
ただし、無条件に誰でも使用人兼務役員になれるわけではありません。
やはり、法人税は下図のようにガチガチに規制していました。
社長や代表取締役のような肩書きだけではなく、専務や常務といった肩書きのある役員は使用人兼務役員になれないことになっています。監査役は無条件に使用人兼務役員になれないことになっています。
紛らわしいケース
通称専務や自称常務
もっとも、上記の専務や常務は、取締役会等で正式に職制上の地位を与えられたものに限ることとなっていますので、手続きを経ないで使用している通称専務や自称常務であれば、使用人兼務役員になってもいいとされています。ただし、税務調査時に誤解を招くので好ましくはないですね。
経理担当取締役
担当取締役という肩書きの名刺を見たことはありませんか?この担当取締役というのは、取締役の中での役割分担であって、使用人としての地位ではないとされています。似たようなものに管掌取締役みたいなのもありますね。
常勤ではない取締役経理部長
使用人兼務役員は、常時使用人としての職務に従事していなければならないとされています。非常勤取締役に賞与を支給したいから経理部長の肩書きを付けたとしても使用人兼務役員とはなりませんので注意が必要です。
使用人兼務役員であれば、賞与を支給できる!と考えられる社長もいらっしゃるかもしれません。上記のような実態を伴ったものでなければ、税務署は使用人分賞与の支給を認めてくれませんのでご注意ください。
使用人兼務役員については、給与支給額のうち、いくらが役員給与でいくらが使用人給与なのかという問題も別にありますのでご注意ください。
「経営に従事する」とはどういうことか?
2012年4月11日 | 税金の基礎知識
税法上の役員
法人税法は、役員について会社法とは別の定義をしています。これを税法上の役員といいます。
取締役云々という部分が会社法その他特別法による役員です。上の図からもわかるように、法人税法ではみなし役員という特別の概念を加えて役員の範囲を決定しているのです。
「経営に従事している者」とは
みなし役員とは、使用人以外の者で「経営に従事している者」もしくは、使用人のうち特定株主(今回は詳説しません)のうち「経営に従事している者」を意味することとされています。
ここでいう「経営に従事している」とは何を意味するかがポイントになるのですが、法人税法及び法人税法関係の通達に明確な解説がありません。
広辞苑では、「継続的・計画的に事業を運営すること。特に、会社・商業など経済的活動を運営すること。また、そのための組織。」とされています。異論はありませんが、複合的多面的な行為であるため、ある日突然、「経営に従事しているのでこの人への賞与は損金不算入です!!」と税務調査で指摘を受けるかもしれません。怖い怖い。
裁決事例ではどうなっている?
解釈が曖昧であるがゆえに、上記のようなトラブルも多数生じてきたと思います。
そこで、裁決事例を概観してみようかと思います。
裁決事例(役員の範囲)にも記載されています。
同族会社の判定の基礎となった株主に該当する使用人について役員に該当しないとした事例(昭和47年7月17日裁決)
■事実関係
・ 否認の指摘を受けたのは代表者の息子2人
・ 1名は「専務」と呼ばれていたが、名刺にそのような記載はない
・ 子息2名には出勤簿はないが、他の使用人には出勤簿が作成されていた
・ 他の使用人には残業手当が支給されているが、子息2名には残業手当は支給されていない
・ 使用人には夏冬に月額給与1ヶ月分程度の賞与がそれぞれ支給されていたが、子息2名には冬に2ヶ月分程度の賞与が支給されていた
・ 代表者は高齢ではあるが極めて健康で、会社の営業活動の中心となり、経営の支配権の一切を掌握し、すべての使用人を直接指揮監督していた
■審判所の判断
国税当局は、仕入販売の全般を管理していた子息、製造の全般を管理していた子息それぞれはみなし役員だと指摘したが、審判所はそれぞれ「主任」程度に過ぎないとした。
同族会社の使用人のうち同族会社の判定の基礎となった株主等であっても、その会社の経営に従事しているか否かによってその取扱いを異にした事例(昭和47年10月23日裁決)
■審判所の判断
・ 代表者の妻は、法人の全体的な管理事務を担当している
・ 経営方針、貸出機械等の料金の決定、資金計画、基本的資材購入の決定、従業員等の採用、支給給与、賞与の額の決定等の重要事項の決定を代表者らとともに行っているとの陳述がある
・ よって、経営に従事していると判断する
・ なお、売掛・買掛帳の整理、請求書の発行、労働者の賃金計算等経理事務を担当している同族関係者は経営に従事しているとは認められないと判断
商業登記簿上の役員でなくても実質的に会社の経営に従事している者に支給した賞与の額は役員賞与に該当するとした事例(昭和55年2月20日裁決)
■審判所の判断
・ 代表者は5年ほど前から病身で、他の登記上の取締役も新規事業の経験・知識を持っていなかった。取締役会も開催されていなかった。
・ 取締役でない者が取引銀行から自己の名義による借入を決定する等、法人の資金計画を行っていること。商品の仕入及び販売の計画(方針)を決定していること。従業員の採用諾否や給与の決定等を行っていること。
・ 代表者及びその家族に、生活に必要な資金を報酬として支払うことを条件に経営を任せられたという証言がある
・ 賃金台帳では代表者の約2.5倍の報酬を得ている
・ 上記の事実から、当該者は自己の責任で業務の運営を行っていると認められる
「経営に従事している」を再考してみる
裁決事例には細かいことがたくさん記載されていますね。
一般に、経営上の重要事項とは、人事・資金・技術・販売戦略などが含まれるとされています。上記の裁決例でも、この点がポイントとなっていました。
要約すると、
・ 営業分野の変更
・ 採用・昇格・給与の決定
・ 借入の実行決定
に係わっていると「経営に従事している」と指摘される可能性が出てくるようです。
逆に言えば、
・ 経理事務作業を行っている程度
・ 経営者の決定した方針にしたがって販売や仕入の実務責任を負っている程度(?)
で、それ以上の方針決定に関与していなければ、「経営に従事している」ことにはならないということのようです。
中小企業の場合、通常は、代表者が圧倒的な決定権を持っていて、その親族に方針決定に関して意見を求めるというのは少ないように思います。あっても、参考意見程度で最終的には社長が決定しているのではないでしょうか。実質上の決定権がないとしても、親族は「経営に従事している」とみなされ易いので注意が必要です。給与を支給していなければ、損金不算入給与とされることはないのですが、同族会社の場合、支給していることが多かったりします。
大前提として、取締役会に参加して発言をしていたら「経営に従事している」ことになってしまいます。取締役会の役割そのものが経営の重要事項の審議ですから。
たとえば、「(経営)顧問」といった肩書きでオブザーバーとして取締役会に参加していたらどうでしょう。オブザーバーなので一切発言しないというのであれば、参加する意味はないので何かしらの発言はされるでしょうね。議事録の参加者の記述にも注意が必要ですね。
青色申告は本当に得なのか?
2012年4月9日 | 税金の基礎知識
先日、ご紹介した『あらゆる領収書は経費で落とせる』という書籍に、辛らつなことが書かれていました。
ズバリ、青色申告は本当に得なのか?というテーマです。
起業についてネット検索を行うと、青色申告関連の情報が大量に出てきます。
いずれも青色申告にはたくさんの特典があると解説されています。
我々税理士の立場からは書き難いことがズバリ書かれています。
ここまで書かれたものを僕は読んだことがありません。
100%正しいとは言いませんけど、匿名だから書けることがあるのも事実です。
興味のある方は、一読してみるとよいかもしれません。