コラム

使用人兼務役員の使用人分給与の決め方

2012年4月18日 | 税金の基礎知識

役員分の給与と使用人分給与が混在

使用人兼務役員は、使用人としての職制上の地位と役員としての地位を同時に持つ役員でした。

その人に対する給与は、役員報酬部分と使用人給与部分が含まれていることになる訳です。
たとえば、月額支給額が50万円の場合、これを役員報酬分と使用人給与分に区分しなければなりません。区分しなければ、使用人兼務役員のメリットを活かすことができなくなってしまいます。明確なポリシーがないまま、支給額の全額を役員報酬としている中小企業もしばしば見かけます。

使用人分給与をいかに増やすかがポイント

使用人兼務役員のメリットを活かすためには、いかに使用人分給与を増やすかがポイントとなります。
50万円のうち、25万円が役員報酬分、残りの25万円分が従業員給与!と適当に決めてしまってはいけません。

法人税のメリットは使用人分としての賞与を支給できることでした。
月額給与の2カ月分を支給するのであれば、役員報酬以外の使用人分給与をベースに算定することになります。使用人分給与が25万円なら50万円の賞与になりますし、30万円なら60万円の賞与ということになります。

雇用保険のメリットは退職後の雇用保険の受給が可能ということでした。
雇用保険は退職前6ヶ月間の賃金総額から日額を計算して、その80%から45%が支給されることになります。80%の支給を前提とすると25万円であれば20万円、30万円であれば24万円の支給額ということになる訳です。

法人税の考え方

使用人兼務役員の給与総額を使用人部分と役員報酬部分に区分しなければなりません。
法人税では次のように計算することになっています。

役員報酬 = 支給総額 - 適正使用人分給与

つまり、適正使用人分給与を先に決めて、役員報酬は結果として決まるということです。

使用人分給与を多くした方が有利だからということで、支給総額の全額を使用人分給与として、役員報酬をゼロにしてしまうという単純な考え方は認められません。

あくまでも使用人分の給与は適正な金額までしか認められないのです。

使用人分の給与の適正額

適正使用人分給与について次の通達があります。

法人税基本通達 9-2-23
使用人分の給与の適正額

使用人兼務役員に対する使用人分の給与を令第70条第1号ロ《限度額等を超える役員給与の額》に定める役員給与の限度額等に含めていない法人が、使用人兼務役員に対して使用人分の給与を支給した場合には、その使用人分の給与の額のうち当該使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務とおおむね類似する職務に従事する使用人に対して支給した給与の額(その給与の額が特別の事情により他の使用人に比して著しく多額なものである場合には、その特別の事情がないものと仮定したときにおいて通常支給される額)に相当する金額は、原則として、これを使用人分の給与として相当な金額とする。この場合において、当該使用人兼務役員が現に従事している使用人の職務の内容等からみて比準すべき使用人として適当とする者がいないときは、当該使用人兼務役員が役員となる直前に受けていた給与の額、その後のベ-スアップ等の状況、使用人のうち最上位にある者に対して支給した給与の額等を参酌して適正に見積った金額によることができる。

要するに、

取締役経理部長の経理部長としての給与は、たとえば取締役ではない総務部長の給与を基準として決めましょう、ということです。
経理部長と総務部長を比較するのであればわからなくもありませんが、取締役営業部長の営業部長分の給与を経理部長と比較して決めるのは釈然としないのは僕だけではないと思います。

こんなことありますよね

ある程度の規模の会社であれば、比較する役職者(比準使用人といいます)が多数いるかもしれませんが、中小企業では比準使用人として適切な人がいないかもしれません。

こうした実情に配慮して、比準使用人がいない場合の対処方法も通達には記述されています。しかし、これですべてが解決できるわけでもないと思います。

全員が役員で全員が事業運営の実務をしている

ベンチャー企業で外部の人材を役員登用し、同時にラインの部門長を兼任してもらっている

親会社で部長職の人が取締役として送り込まれ子会社で部門長も兼務している。親会社とは給与格差があるため給与が突出している

創業時から取締役で実務を担当してきた。拡大に応じて社員が増加したが給与水準が比較にならない

取締役が退任したので定員不足を補うために社員を役員昇格させた。実態は従業員と同じなので給与総額はほとんど上げていない

合理的なロジックを組むことが大切

国税調査官は、使用人兼務役員の給与についてすぐに上記の通達を思い出します。
通達に準拠していないから修正が必要!と指摘されることもありえます。
少なくとも、通達に記載された方法に準拠していない場合には、どのようなロジックで役員報酬と使用人分給与を区分したのか質問されることでしょう。

上記は、あくまでも「通達」であって「法律」ではありません。通達は判断指針として国税調査官を拘束するものではありますが、納税者を拘束するものではありません。

納税者サイドに合理的なロジックがあり、課税上の弊害がなければ問題なく認めてもらえるものです。現に、通達にも「等を参酌し」と記載されています。例示された計算方法以外認められないというようなことはありません。
これまでに何度も指摘を受けたことがありますけど、きちんと説明したら納得してもらえました。

使用人兼務役員に使用人分賞与を支給するとこの問題が表面化してきます。
指摘されてから考えるのではなく、きちんとした論拠をもって適正使用人分給与を決定し、書面化しておくことが大切です。





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