会社法監査で監査人ローテーションが必須とは限らない
2012年4月13日 | 中小企業と経営 / 資金調達と決算書
大会社等の監査人ローテーション
会計士協会から平成24年3月30日に『自主規制・業務本部 平成24年審理通達第2号「大会社等の監査における継続的監査の制限の確認について」』というのが出ていました。現在は消されてしまっていますけど。
要するに、大会社等の公認会計士監査は最長7年間しか同一の公認会計士は実施できません!という規制です。
平成23年3月決算が最後ですから注意してね!という通達です。
今頃言うな!という突っ込みがあちこちから上がっていたので、ネットから削除したのでしょうか?
会社法監査が当然に規制対象になるわけではない
そんなことはどうでもいいのですけど、『大会社等の監査』と『(会社法の)大会社の監査』は必ず一致するわけではないことに注意が必要です。
実は両者は全く別のものなのです。
『大会社等の監査』とは、公認会計士法で定める「大会社等」の監査を意味しており、会社法が定める「大会社」とは異なるのです。
公認会計士法第24条の2
公認会計士は、当該公認会計士、その配偶者又は当該公認会計士若しくはその配偶者が実質的に支配していると認められるものとして内閣府令で定める関係を有する法人その他の団体が、次の各号のいずれかに該当する者(以下「大会社等」という。)から第2条第2項の業務(内閣府令で定めるものに限る。)により継続的な報酬を受けている場合には、当該大会社等の財務書類について、同条第1項の業務を行ってはならない。
1 会計監査人設置会社(資本金の額、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した合計額その他の事項を勘案して政令で定める者を除く。)
2 金融商品取引法第193条の2第1項又は第2項の規定により監査証明を受けなければならない者(政令で定める者を除く。)
(以下省略)
公認会計士法第24条の3
公認会計士は、大会社等の7会計期間(事業年度その他これに準ずる期間をいう。以下同じ。)の範囲内で政令で定める連続する会計期間(当該連続する会計期間に準ずるものとして内閣府令で定める会計期間にあっては、当該会計期間。以下この項、第34条の11の3及び第34条の11の4第1項において「連続会計期間」という。)のすべての会計期間に係る財務書類の監査関連業務を行った場合には、当該連続会計期間の翌会計期間以後の政令で定める会計期間に係る当該大会社等の財務書類について監査関連業務を行ってはならない。(以下省略)
公認会計士法施行令第8条
法第24条の2第1号(法第16条の2第6項において準用する場合を含む。)に規定する政令で定める者は、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が100億円未満であり、かつ、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が1000億円未満の株式会社とする。
要するに、
会社法の大会社 | 資本金が5億円以上、または、負債の総額が200億円以上 |
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会計士法上の大会社等 | 資本金が100億円以上、または、負債の総額が1000億円以上 |
ということで、金商法により監査を受けなければならない大会社等でなければ、会社法の大会社であっても直ちに公認会計士のローテーションが必要なわけではないということになります。
ちなみに、会社法の大会社は12000社もあるのだそうです。
「経営に従事する」とはどういうことか?
2012年4月11日 | 税金の基礎知識
税法上の役員
法人税法は、役員について会社法とは別の定義をしています。これを税法上の役員といいます。
取締役云々という部分が会社法その他特別法による役員です。上の図からもわかるように、法人税法ではみなし役員という特別の概念を加えて役員の範囲を決定しているのです。
「経営に従事している者」とは
みなし役員とは、使用人以外の者で「経営に従事している者」もしくは、使用人のうち特定株主(今回は詳説しません)のうち「経営に従事している者」を意味することとされています。
ここでいう「経営に従事している」とは何を意味するかがポイントになるのですが、法人税法及び法人税法関係の通達に明確な解説がありません。
広辞苑では、「継続的・計画的に事業を運営すること。特に、会社・商業など経済的活動を運営すること。また、そのための組織。」とされています。異論はありませんが、複合的多面的な行為であるため、ある日突然、「経営に従事しているのでこの人への賞与は損金不算入です!!」と税務調査で指摘を受けるかもしれません。怖い怖い。
裁決事例ではどうなっている?
解釈が曖昧であるがゆえに、上記のようなトラブルも多数生じてきたと思います。
そこで、裁決事例を概観してみようかと思います。
裁決事例(役員の範囲)にも記載されています。
同族会社の判定の基礎となった株主に該当する使用人について役員に該当しないとした事例(昭和47年7月17日裁決)
■事実関係
・ 否認の指摘を受けたのは代表者の息子2人
・ 1名は「専務」と呼ばれていたが、名刺にそのような記載はない
・ 子息2名には出勤簿はないが、他の使用人には出勤簿が作成されていた
・ 他の使用人には残業手当が支給されているが、子息2名には残業手当は支給されていない
・ 使用人には夏冬に月額給与1ヶ月分程度の賞与がそれぞれ支給されていたが、子息2名には冬に2ヶ月分程度の賞与が支給されていた
・ 代表者は高齢ではあるが極めて健康で、会社の営業活動の中心となり、経営の支配権の一切を掌握し、すべての使用人を直接指揮監督していた
■審判所の判断
国税当局は、仕入販売の全般を管理していた子息、製造の全般を管理していた子息それぞれはみなし役員だと指摘したが、審判所はそれぞれ「主任」程度に過ぎないとした。
同族会社の使用人のうち同族会社の判定の基礎となった株主等であっても、その会社の経営に従事しているか否かによってその取扱いを異にした事例(昭和47年10月23日裁決)
■審判所の判断
・ 代表者の妻は、法人の全体的な管理事務を担当している
・ 経営方針、貸出機械等の料金の決定、資金計画、基本的資材購入の決定、従業員等の採用、支給給与、賞与の額の決定等の重要事項の決定を代表者らとともに行っているとの陳述がある
・ よって、経営に従事していると判断する
・ なお、売掛・買掛帳の整理、請求書の発行、労働者の賃金計算等経理事務を担当している同族関係者は経営に従事しているとは認められないと判断
商業登記簿上の役員でなくても実質的に会社の経営に従事している者に支給した賞与の額は役員賞与に該当するとした事例(昭和55年2月20日裁決)
■審判所の判断
・ 代表者は5年ほど前から病身で、他の登記上の取締役も新規事業の経験・知識を持っていなかった。取締役会も開催されていなかった。
・ 取締役でない者が取引銀行から自己の名義による借入を決定する等、法人の資金計画を行っていること。商品の仕入及び販売の計画(方針)を決定していること。従業員の採用諾否や給与の決定等を行っていること。
・ 代表者及びその家族に、生活に必要な資金を報酬として支払うことを条件に経営を任せられたという証言がある
・ 賃金台帳では代表者の約2.5倍の報酬を得ている
・ 上記の事実から、当該者は自己の責任で業務の運営を行っていると認められる
「経営に従事している」を再考してみる
裁決事例には細かいことがたくさん記載されていますね。
一般に、経営上の重要事項とは、人事・資金・技術・販売戦略などが含まれるとされています。上記の裁決例でも、この点がポイントとなっていました。
要約すると、
・ 営業分野の変更
・ 採用・昇格・給与の決定
・ 借入の実行決定
に係わっていると「経営に従事している」と指摘される可能性が出てくるようです。
逆に言えば、
・ 経理事務作業を行っている程度
・ 経営者の決定した方針にしたがって販売や仕入の実務責任を負っている程度(?)
で、それ以上の方針決定に関与していなければ、「経営に従事している」ことにはならないということのようです。
中小企業の場合、通常は、代表者が圧倒的な決定権を持っていて、その親族に方針決定に関して意見を求めるというのは少ないように思います。あっても、参考意見程度で最終的には社長が決定しているのではないでしょうか。実質上の決定権がないとしても、親族は「経営に従事している」とみなされ易いので注意が必要です。給与を支給していなければ、損金不算入給与とされることはないのですが、同族会社の場合、支給していることが多かったりします。
大前提として、取締役会に参加して発言をしていたら「経営に従事している」ことになってしまいます。取締役会の役割そのものが経営の重要事項の審議ですから。
たとえば、「(経営)顧問」といった肩書きでオブザーバーとして取締役会に参加していたらどうでしょう。オブザーバーなので一切発言しないというのであれば、参加する意味はないので何かしらの発言はされるでしょうね。議事録の参加者の記述にも注意が必要ですね。
青色申告は本当に得なのか?
2012年4月9日 | 税金の基礎知識
先日、ご紹介した『あらゆる領収書は経費で落とせる』という書籍に、辛らつなことが書かれていました。
ズバリ、青色申告は本当に得なのか?というテーマです。
起業についてネット検索を行うと、青色申告関連の情報が大量に出てきます。
いずれも青色申告にはたくさんの特典があると解説されています。
我々税理士の立場からは書き難いことがズバリ書かれています。
ここまで書かれたものを僕は読んだことがありません。
100%正しいとは言いませんけど、匿名だから書けることがあるのも事実です。
興味のある方は、一読してみるとよいかもしれません。
